直近の報道によれば、Twitterを買収したイーロン・マスク氏が、突如Twitterの従業員を大量に整理解雇したとされています。
そのようなニュースからも明らかなように、会社を経営していく上では、経営悪化などにより、経費削減手段として、やむなく整理解雇を行う可能性もゼロではありません。
ではそのような事態となった場合、どのようなことに気をつけ、どのような流れで進めていくべきでしょうか。

整理解雇とは

整理解雇とは、人員の整理を目的として行われる解雇のことで、普通解雇の一種です。
整理解雇は、基本的に会社の経営上の事情によるものであるため、従業員に落ち度はありませんので、従業員の能力不足や無断欠勤などを理由とする解雇とは大きく性質を異にします。

整理解雇の4要件

解雇が客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、解雇権を濫用したものとして無効とされます(労働基準法第18条2項)。
すなわち、解雇が有効とされるためには、解雇権の濫用とされないだけの①合理的な理由と②社会的相当性が必要なのです。
そこで、解雇を実行する前には、当該事案に①合理的な理由と、②社会的相当性があるかどうかを十分に調査・検討する必要があります。

そして、整理解雇の場合については、裁判所は、以下のような4つの要件を、整理解雇の判断要素として掲げています。

1 人員削減の必要性
2 解雇回避努力
3 人選の合理性
4 手続の妥当性

したがって、会社側としては、整理解雇を行う場合、この4つのポイントを踏まえて、手順を組み立てておくことが必要です。

整理解雇にあたり会社として具体的に注意すべき点

上記4要件を踏まえると、会社として注意すべき点は、具体的には以下のとおりとなります。

1 人員削減の必要性について根拠資料等を準備しておく
2 解雇の前に解雇以外の経費削減努力を行う
3 解雇の対象者を合理的基準に基づき選定する
4 対象者や組合に十分な説明と協議を行う

以下ではこの4つのポイントについて順番にご説明していきたいと思います。

1 人員削減の必要性について根拠資料等を準備しておく

適法な整理解雇と認められるためには、抽象的な先行きの不安や経営悪化等では足りず、人員削減の必要があることを具体的に数字や資料で示すことができるようにしておくことが重要です。

逆に、以下のような事情は、人員削減の必要性がないと判断される方向の事情となりますので、注意が必要です。

(例)
・整理解雇に並行して新規の従業員を募集している
・整理解雇に前後して昇給や賞与増を実施している
・希望退職によりおおむね人員削減の目標を達成している

2 解雇の前に解雇以外の経費削減努力をする

整理解雇は、やはり最終手段です。
そのため、その整理解雇に踏み切る前に、一定の回避行動(別の経費削減手段)を実行しておくことが重要です。
主に重要になってくるポイントとしては、以下の点があります。

・希望退職者の募集を実施した
・派遣社員の削減を実施した
・パート社員や契約社員の削減を実施した
・役員報酬の削減を実施した

これらの経費削減努力を実施しないまま整理解雇を行うと、不当解雇と判断される可能性が高まる危険性があります。

3 解雇の対象者を合理的基準に基づき選ぶ

解雇の対象者を合理的基準に基づき選んでいるかどうかも、適法な整理解雇といえるための重要な判断要素の1つです。

会社側としては、やめてもらいたい人、やめてもらいたくない人がいると思いますが、整理解雇は会社側の事情による解雇ですので、できるだけ客観的な基準に基づき対象者を決めることが必要です。
そのため、(当然のことではありますが)やめてもらいたい人だけの狙い撃ち的な整理解雇は許されません。

実際に、整理解雇の対象者について会社側が客観的な選定基準を設けていなかった場合には、整理解雇は不当解雇であると判断した裁判例も多数あります。
そのため、整理解雇にあたっては、解雇の対象者の選定基準を検討し、明確に定めることが必要です。

具体的な基準としては以下のようなものが考えられます。

(例)
・過去の勤怠状況
例えば、過去の2年間の欠勤・遅刻・早退等欠務時間順に対象者を選定する方法です。
これを合理性ありと判断した裁判例もあります(東京地裁平成12年1月12日決定)。

・整理解雇による経済的打撃の程度
共働きかどうかや、扶養家族の有無などを基準に対象者を選定する方法です。
これを合理性ありと判断した裁判例もあります(横浜地裁昭和62年10月15日判決、東京地裁平成2年9月25日判決)。

・勤務成績・貢献度
顧客アンケートの評価や顧客からの指名数などを基準に対象者を選定する方法です。
これを合理性ありと判断した裁判例もあります(東京地裁立川支部平成21年8月26日決定)。

・年齢
年齢で線引きし対象者を選定する方法です。
ただ、55歳以上の世代は比較的生活に余裕があるなどとして55歳以上という年齢基準による解雇も一応の合理性があると判断した裁判例(横浜地裁昭和62年10月15日判決)は一応存在していますが、年配者は再就職が困難であることなどとして年配者を解雇対象とする基準は合理的でないと判断した裁判例(東京地裁平成13年12月19日判決)もありますので、あまりお勧めはできません。

4 対象者や組合に十分な説明と協議を行う

対象者や組合に十分な説明をして、協議を行ったかどうかも重要なポイントになります。
具体的には決算資料を開示して、会社の経営状況を正しく伝え、整理解雇の必要性について十分、従業員に説明することが肝要です。

確かに、経営者としては、決算資料を開示することに抵抗がある場合もあると思います。
しかし、過去の裁判例では、資料の外部への流出の危険などを理由に、組合に決算書のコピーをとることを認めなかった事例で、説明や協議が十分でないとして不当解雇と判断するケースもありますので、注意が必要です(大阪地裁平成6年3月30日決定)。

また、従業員や組合への説明は繰り返し何度も粘り強く行う必要があります。
組合との団体交渉を1回しか行わなかった場合(東京地地裁立川支部平成21年8月26日決定)や、整理解雇の2、3日前に団体交渉をしたにすぎない場合(甲府地裁平成21年5月21日決定)では、説明や協議が十分でないと判断されています。

整理解雇の手順

以上のポイントを踏まえた上で、時系列に会社が行うべき流れを整理すると、以下の手順を経ることになります。

① 派遣社員や契約社員の削減、希望退職者の募集

まずは、派遣社員や契約社員の削減、希望退職者の募集を行うなど、整理解雇以外の方法による人員削減努力をする必要があります。
このことは、判例により求められている要件(事情)でもあります。

② 会社内部で整理解雇の方針を決定する

派遣社員や契約社員の削減、希望退職者の募集だけでは、必要な人員削減数を達成できない場合は整理解雇に進むことになります。この場合、まずは会社内部で具体的な方針を決定することになります。
特に以下の点については、十分な検討、方針決定が必要になってきます。

・解雇対象者を決定する基準
・解雇の時期
・解雇に伴う退職金その他経済的条件
・解雇前の話し合いをどのように行うか

③ 従業員や組合と協議する

整理解雇に先立ち、従業員や組合に対し経営状況を十分に説明するほか、整理解雇の進め方や解雇対象者を決定する基準などを明らかにするなどして、整理解雇の必要性及び具体的な手続の流れ・基準をについて従業員や組合に理解を求める必要があります。この点も判例上求められている事柄です。

④ 整理解雇の実行

より具体的には、30日前に解雇予告行うか、30日分の解雇予告手当を支払って解雇することになります。

⑤ 解雇後の事務手続きを行う

解雇の後は、社会保険の資格喪失届などの事務手続きが必要になります。

整理解雇という手段について

安易な解雇は危険です。
上記にも記載してきたとおり、解雇に関しては厳格な法規制がありますので、そう簡単に解雇をすることはできません。適正な手続きを踏んで行わなければ、解雇された当該従業員から解雇無効を主張され、裁判に発展してしまう可能性すらあります。

労務問題の解決は弁護士に相談すべき

「従業員整理解雇したい」などの労働問題を弁護士に相談することには、以下のようなメリットがあります。

専門性が高い

日本の労働法では、様々な法律・規定を根拠に、数多くの制限がある上、それらの制限も極めて専門性の高い内容となっています。そのため、これら労働法を正しく理解していないと、誤った判断をしかねません。
そこで、法的な理論武装をすることが大変重要となります。

労働者の言い分が合理的かどうかを見極めることができる

紛争の深刻化を防ぐため、労働者側の言い分が合理的であれば、妥協して受け入れるのも有力な選択肢です。
これに対して労働者側の言い分が不合理であれば、合理的な範囲の主張に収めるよう、労働者と交渉していかなければなりません。
この労働者の主張の合理性の見極めを行うには、やはり専門的知見からの詳細な分析・検討が不可欠です。

訴訟や労働審判に発展してもスムーズに対応できる

労務問題(従業員とのトラブル)が深刻化すると、その後訴訟や労働審判に発展する可能性があります。
弁護士は訴訟・労働審判の手続きに精通していますので、十分に準備を整えたうえで手続きに臨むことができます。

労務問題の予防策についてもアドバイスを受けることができる

会社にとっては、労働問題(従業員とのトラブル)が発生しないに越したことはありません。普段から労働基準法その他の法令を遵守した企業体制を徹底することで、労働問題(従業員とのトラブル)発生リスクを最小化することができます。
弁護士に相談すれば、今後労働問題(従業員とのトラブル)を防止するための予防策についても、アドバイスを受けることが可能です。

会社対応により、事態が悪化する危険性がある

会社が解雇などの一定の処分を一度でも行うと、法的な権利関係に変動を与え、元に戻すことができなくなる場合があります。
そのため、会社が一定の処分や行動を起こす前の段階で、その後のリスクの程度も検討しておくことが必要です。
その後交渉が決裂し、労働審判や訴訟に進んだ場合、会社の当初の対応が裁判所から問題視される(判断に悪い影響を与える)という可能性もあります。
会社が解雇などの一定の処分を行う前に、それまでの会社の指導などの事前対応が十分であったかどうかなど、その後のリスクがどの程度になるかを十分に検討しておくことが重要です。

紛争が長期化、裁判所に持ち込まれるケースが増えている

労働問題(従業員とのトラブル)については、交渉だけでは解決とならず、従業員から労働審判や訴訟を起こされるケースがあります。その場合、紛争も長期化していきます。
そこで事前に「問題社員対応に強い弁護士」に相談し、事前の対応・準備をきちんと行っておくことが重要です。

弁護士に相談することで進め方が明確になる

弁護士に相談することで、自社のケースにあった対処・対応を事前に打ち合わせることができることも大きなメリットです。

労働問題が得意な弁護士の選び方

弁護士に依頼する場合は、労働問題を得意とする弁護士に依頼すべきです。
弁護士も「専門/専門外」あるいは「得意分野/不得意分野」があります。お医者さんも内科医と外科医など専門が分かれているのと一緒です。風邪の症状があってそれを治してもらうには内科医の先生に診てもらいますよね。風の症状で外科医の先生にはお願いしないと思います。
労働問題も、労働問題を専門的に扱い、得意とする弁護士に依頼すべきです。

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■この記事を書いた弁護士
弁護士法人グリーンリーフ法律事務所
弁護士 小野塚 直毅
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