
雇用契約時に特定の業務内容を指定して合意した、または、雇用契約時に特段の定めはなかったが長年にわたり同じ業務を任せていたという状況において、新たな業務上の必要性が生じたことを理由に当該従業員に対して別の業務を行うよう命じることができるのでしょうか。
今回は、職種限定合意と配転というテーマについて解説をしていきます。
職種限定合意とは?

職種限定合意とは、使用者が従業員と雇用契約を締結するにあたり、従業員が従事すべき業務内容を限定する合意のことを言います。
雇用契約書において従業員の業務内容が特定されているケースが一般的ですが、従業員が長期間にわたり特定の業務に従事している場合に黙示的に職種限定合意が成立したと認定されるケースもあります。
配転とは?

配転とは、使用者が人事権に基づいて従業員の業務内容の変更を命じるものです(配転には勤務地の変更も含みますが、今回は業務内容の変更について取り上げます)。
従業員の配転については雇用契約書や就業規則に「業務上の必要に応じて配転を命じることがある」等の記載がされることが多くなっていますが、使用者はその記載を前提に従業員に対して配転命令を下し、事業場の人員配置等を調整することになります。
職種限定合意と配転の関係性

従前の裁判所の考え方
雇用契約の内容やその後の労働実態において、ある従業員の業務内容が限定されているという場合、使用者は当該従業員に対して業務内容の変更を命じることができないというのが素直な帰結ですが、従前、裁判所は、雇用契約等において限定された業務自体が廃止されてしまうような場合等にまで使用者が従業員に対して配転を命じることができないとするのは非現実的として、従業員の配転を正当化する特段の事情があれば、他の業務への配転命令を下すこともあり得るという立場を採用し、職種限定合意がある場合にも使用者の配転権限を認めた上で当該配転命令の有効性(①配転命令の前提となる業務上の必要性があるか、②不当な動機目的に基づく配転命令でないか、③配転により従業員が受ける不利益の程度が著しいものではないか)を判断していました。
令和6年4月26日最高裁判決
ところが、今般、職種限定合意と配転の関係性について最高裁が従前の扱いとは異なる判断を下しました。
その具体的な判断は以下のとおりです。
「労働者と使用者との間に当該労働者の職種や業務内容を特定のものに限定する旨の合意がある場合には、使用者は、当該労働者に対し、その個別的同意なしに当該合意に反する配置転換を命ずる権限を有しないと解される。上記事実関係等によれば、上告人と被上告人との間には、上告人の職種及び業務内容を本件業務に係る技術職に限定する旨の本件合意があったというのであるから、被上告人は、上告人に対し、その同意を得ることなく総務課施設管理担当への配置転換を命ずる権限をそもそも有していなかったものというほかない。そうすると、被上告人が上告人に対してその同意を得ることなくした本件配転命令につき、被上告人が本件配転命令をする権限を有していたことを前提として、その濫用に当たらないとした原審の判断には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。」
この事案について、最高裁から法令違反があると指摘された高裁は、従前の裁判所の考え方に従い、使用者と従業員との間の職種限定合意を認定した上で使用者の配転命令の有効性判断をしたのですが、最高裁は、そもそも従業員との間で職種限定合意が存在する場合において使用者に一方的な配転権限は存在しないと判断し、従前の裁判所の考え方を修正しました。
最高裁判決の実務上の影響

令和6年4月26日最高裁判決は、職種限定合意と配転の関係性について素直に考えた場合に導かれる結論に裁判所の考えを戻したものという印象です。
従業員の配転に関しては、令和6年4月より、従業員に対する労働契約締結時の労働条件明示義務の内容に「従事すべき業務の変更の範囲」が含まれることになったため、今後、従業員との間に職種限定合意が存在するか否かについてはより客観的に判断されるようになることが予想されます。
使用者の側として、従業員に対する労働条件明示の段階で職種限定合意が存在すると判断される可能性がある場合、当該従業員に対しては一方的に配転命令を下すことができないということを前提に今後の人員配置等を検討する必要があります(上記の最高裁判決を前提としても当該従業員の同意がある場合には配転を行うことは可能ですので、従業員が同意する可能性も含め検討することになります)。
職種限定合意と整理解雇との関係性

整理解雇は経営難や事業縮小に伴い使用者が人員削減のために実施する解雇措置を指します。
使用者が整理解雇を行うためには、①人員削減の必要性、②解雇回避努力、③解雇者選定の合理性、④手続の妥当性の4要件を満たす必要があるとされていますが、②の一環として職種限定合意のある従業員に対して配転を命じることはできるのでしょうか。
上記の最高裁判例をそのまま当てはめれば整理解雇を実施せざるを得ない場面においても職種限定合意のある従業員に対して配転を命じることはできないということになりそうですが、事業縮小等により当該従業員の従事していた業務自体がなくなってしまうという場合にまで配転という選択肢をとることができないという結論は使用者にとっても従業員にとっても現実的ではないため、上記の最高裁判例については単純な配転の場面と整理解雇が必要となる場面とで意味合いを分けて考える必要がるように思います。
まとめ

今回は、職種限定合意と配転というテーマについて解説をしてきました。
上記で紹介した最高裁判決の考え方を前提に、従業員との間で職種限定合意を交わした際のリスクについて前もって検討しておくことが重要になるかと思います。
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