
人件費の高騰に伴い、企業側が検討する事項として「シフトカット」が挙げられると思われます。
もっとも、会社都合により従業員のシフトカットを行った場合、労働基準法上の休業手当の支払い義務が生じる可能性がありますので、会社としては慎重な対応が必要であります。
本ページは、会社都合のシフトカットの違法性の有無などについて弁護士が解説するページとなっております。
そもそもシフトカットとは?

一般的に、「会社都合によりパート・アルバイトなどのシフトを減らすこと」を意味します。
シフトカットの一例として、次のようなものが挙げられます。
1 いったん決めたシフトから直前に外す
労働者との間で合意していたシフトについて、会社都合で直前になりシフトを外す態様は、会社都合のシフトカットに該当すると考えられます。
2 客足が鈍いという理由で終業予定時刻よりも早く切り上げさせた
元々決まっていた勤務時間よりも早く切り上げるよう指示する態様は、会社都合のシフトカットに該当すると考えられます。
3 労働契約で定められた勤務日数よりもシフトに入れる日数が少ない
労働契約で勤務日数や時間数が定められている場合、労働者はその日数や時間数分を働く義務を負う反面、企業側も労働条件・環境を整えたうえで、労働に対して賃金を支払う義務を負います。
そして、契約上の勤務日数(時間数)よりも少ない日数(時間数)しかシフトに入れないとすれば、会社都合によるシフトカットに該当すると考えられます。
会社都合のシフトカットは違法か?

次に、会社都合によるパートやアルバイトのシフトカットが違法に当たるのかについて解説いたします。
1 業務命令として自宅待機を命じることは可能
まず、使用者は、労働契約を締結している労働者に対して、業務上の指揮命令権限を有しています。
この指揮命令権限には、「仕事をせずに自宅で待機してください」と指示する権限も含まれています。
したがって、業務命令に基づき、自宅待機を命ずることは可能であると考えられます。
2 シフトカット期間中は休業手当の支払い義務が生じる
もっとも、会社都合でシフトカットをした場合、「働いていないのだから賃金を支払わなくていい」というわけではありません。
法律上、「使用者の責に帰すべき事由による休業」の場合には、使用者は労働者に対して休業手当の支払い義務を負う旨が定められています(労働基準法26条)。
そして、シフトカットは会社都合によるものですので、「使用者の責に帰すべき事由による休業」に該当します。
よって、会社都合でシフトカットした場合、企業側は労働者に対し、「平均賃金の60%に相当する休業手当」を支払う必要があると考えられます。
平均賃金は、原則として「算定すべき事由の発生した日の前3か月間に支給された賃金の総額 ÷ 当該期間の総日数」の計算式により求められます。
「賃金の総額」には、基本給・手当などの名目を問わず、使用者から労働者に対して支払われた労働の対価が原則としてすべて含まれます。
もっとも、例外的に以下の期間中の費目または以下の賃金については、平均賃金の算定における期間及び賃金の総額には考慮されません(労働基準法12条第3項、第4項)。
・業務上負傷し、または疾病にかかり療養のために休業した期間(同条3項第1号)
・産前産後の女性が、労働基準法65条1項の規定により休業を請求した場合の休業期間(労働基準法12条3項第2号)
・使用者の責めに帰すべき事由によって休業した期間(同項第3号)
・育児休業期間、介護休業期間(同項第4号)
・試用期間
・退職金など、臨時に支払われた賃金(労働基準法12条4項)
・ボーナスなど、3か月を超える期間ごとに支払われる賃金(同項)
・労働協約などで定められていない現物給与(同項)
シフトカットに関する裁判例(東京地裁 令和2年11月25日判決)

以下では、シフトカットの違法性について争われた裁判例について紹介いたします。
1 事案の概要
雇用契約書において、始業・終業時刻、休憩時間について「始業時刻午前8時00分、終業時刻午後6時30分、休憩時間60分の内8時間」のほか、手書きで「シフトによる」と記載していました。
勤務体制は毎月組まれるシフトで決定し、
・翌月の希望休日を前月の中旬ごろまでに各従業員が申告する
・従業員の希望を考慮してシフト表の案を作り、前月下旬ごろにシフト会議を開く
・管理職がシフト表について話し合い、各事業所において、人員の融通などを行ったうえで正式決定する
という状況でした。
本事案では、週3日労働を希望する当該従業員について、5月は13日、6月は15日、7月は15日、8月は5日、9月は1日シフトに入れ、10月以降は1日もシフトに入れていませんでした。
2 裁判所の判断
裁判所は、シフト制で勤務する労働者にとって、シフトの大幅な削減は収入の減少に直結するものであり、労働者の不利益が著しいことを指摘して、合理的な理由がなければ大幅なシフト削減は「シフト決定権限の濫用」にあたり、違法になると判断しました。
そして、会社が一方的にシフトカットした月について、直近3か月の賃金額との差額の支払いを会社に命じました。
まとめ

以上、会社都合のシフトカットの違法性について解説いたしました。
ご紹介しました裁判例では、どのような事情が「合理的な理由」に該当するのかについては判断を示しておりません。
もっとも、合理的な理由なく突如大幅なシフトカットをすると、裁判例のように「シフト決定権限の濫用」と判断される可能性がありますので、シフトカットする際には慎重な検討が必要であります。
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