近年、退職代行サービスを用いた退職の通知が増えています。使用者の方から実際に「従業員に退職代行を使われた!」と相談を受けることもあります。

従業員からそのような退職代行を用いた通知が届いた場合、会社としてはどのように対応すべきでしょうか。

ここでは、従業員が退職代行サービスを用いた場合の会社対応について解説していきたいと思います。

退職代行とは

退職代行とは、その名のとおり、従業員の退職の意思表示を、第三者が当該従業員の代わりに会社へ伝えることをいいます。

何らかの理由で、自分からは会社へ退職の意思を伝えづらい等の場合に利用することが想定されています。

退職代行が利用される理由の具体例

実際に退職代行が使われる理由としては、以下のようなものがあります。

・人手不足などで会社も苦しい状況なので、言い出しにくい

・上司や社長からパワハラを受けていて、怖くて伝えられない

・以前、退職届を会社に提出したが、断られ受け取ってもらえなかった

・刑事事件を起こして収監されてしまったため、退職届を出せなくなってしまった

退職代行が使われた際の初動

退職代行が使われた場合、通常は、その退職代行サービスを行う第三者から、会社に書面で通知が届くと思います。

そうなった場合に、まず会社で確認いただきたいのは、「誰からの通知か」という点です。

退職代行サービスを行う人

退職代行サービスを行う人は、概ね以下のどれかです。

① 民間業者

② 労働組合

③ 弁護士

以下順に解説していきます。

① 民間業者

一番気をつけていただきたいのは、この民間業者です。

弁護士でない者が従業員の代理人として交渉などの法律業務を行うと、「非弁行為」となります。

そのため、弁護士以外の民間業者が運営する退職代行サービスで、交渉などを行い、非弁行為に当たる場合には、当該退職代行による退職の意思表示を拒否することができます。

通知を出した人が弁護士か、民間業者か、よく確認してください。

② 労働組合

労働組合の場合は、団体交渉という権利が憲法上も保障されているため、労働組合としての団体交渉申入れであれば、これに対応する必要が出てきます。

③ 弁護士

一番問題がないのは弁護士からの通知です。

退職代行により弁護士から通知が届いた場合には、これも対応の必要が出てきます。

退職代行を受けた場合の対応

つぎに退職代行を受けた場合、会社としてはどのような対応が必要でしょうか。

まず大原則として、労働者には退職の自由があります。

そのため、退職の意思表示それ自体を拒否することはできません。

そこで、退職の意思表示が、民法や社内規則(就業規則)に抵触するものでないかどうかの確認を行い、抵触するものではなければ、基本的には同退職の意思表示を受け入れて対応を進めていく必要があります。

ではどのような点を確認すべきでしょうか。

従業員の雇用形態と希望の退職日

確認いただきたいのは、従業員の雇用形態についてです。

民法では、「無期雇用」の場合は、退職の意思を表示してから、2週間後に退職できる旨が定められています。

一方で、「有期雇用」の場合は、原則として契約期間内に一方的に退職を申し出ることはできません。そのため、原則的には、退職代行を使われたとしてもこれに応じる必要はありません。

ただし、有期雇用の場合であっても、従業員がいじめやパワハラ、セクハラ等を受けている、体調不良や家族の介護等の何らかやむを得ない事情がある場合は、例外的に退職できる場合があります。

なお、就業規則で「退職の1ヶ月前までに申し出ること」などと定めているケースも多いですが、この場合でも民法の規定が優先されることになりますので注意が必要です。民法の規定(2週間)よりも短い期間であればそちらが優先されますが、民法の規定(2週間)よりも長い期間の場合は、民法が優先されるためです。

再発防止策を検討し講じる

従業員から退職代行を使われたということは、何らかの理由があるはずです。

例えば、上司からパワハラを受けていて、怖くて伝えられないのでAさんが退職代行を使ったということであれば、さらにBさん、Cさんと続いていく可能性もあります。

そこで、会社としてなぜ退職代行が使われたのかという原因をきちんと把握し、原因を除去することも非常に重要となります。

そのため、今後二度と退職代行が利用されないよう、再発防止策を実施することが大切です。

当該退職代行の原因を特定し、その原因除去に努めましょう。

また、就業規則の見直しや管理体制の強化も検討いただくと良いと思います。

会社として行ってはいけないこと

これまで解説してきたとおり、非弁行為に対しては応じる必要はありませんが、非弁行為ではない退職代行に対しては、その内容をよく確認し、問題がなければ対応していく必要があります。

そのため、問題のない退職代行に対しては、以下のような対応は会社として行ってはいけません。

例①:退職代行を受けても無視をして何も対応しない

先にも解説したとおり、労働者には退職の自由がありますので、これを拒否することはできません。無視をして何も対応しないということは避けましょう。

もし何らか納得できない部分や不明な点があるときには、弁護士に相談してみましょう。

例②:給与を支払わない、損害賠償請求と給与を相殺するなど

また、退職日までの給与(有給休暇含む)も支払う必要があります。そのため、退職代行を使ったことを理由に(あるいはその他の理由で)給与を支払わないということは許されません。

加えて、従業員の何らかの行為により会社に損害が生じたとして、損害賠償請求をして、従業員の給与と相殺することも同様に避けた方が良いと思います。

なぜかと言いますと、労働基準法に規定された「賃金全額払いの原則」により、法令で認められた源泉徴収や社会保険料の控除など以外には、賃金の一部を差し引いて支払うことが禁止されているからです。

もちろん、この原則にも例外はあり、従業員の同意を得ていれば、給料と損害賠償請求権とを相殺してよいことにはなっています。

しかし、ここで言う「同意」が問題です。

判例によれば、相殺の同意が「労働者の自由な意思に基づいてされたものであると認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在する」場合であれば労基法に違反しないが、相殺の同意が「労働者の自由な意思に基づくものであるとの認定判断は、厳格かつ慎重に行わなければならない」として、かなり厳格な審査が行われることになっています。

つまり、従業員がその自由意思に基づいて(会社に脅されたり、強制されたりすることなく、自ら望んで)相殺に応じたことが第三者から見ても明らかであると言えるような事情があり、そのような事情の存在を裏付ける証拠がなければいけないことになります。

これは会社としてかなりハードルが高いものにはなります。

まとめ

以上に説明したとおり、退職代行については、その差出人や内容をきちんと確認し、慎重に対応することが必要になります。

また、退職代行の理由(原因)に応じたその後の対策も大事になっていきます。

そのため、退職代行が使われた場合、会社として具体的にどのように対応していけばよいかについては、弁護士に相談することも検討いただければと思います。

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■この記事を書いた弁護士

弁護士法人グリーンリーフ法律事務所
弁護士 小野塚 直毅

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