従業員が使用者の秘密情報を利用して、使用者の利益を損なうということがあります。身近な所で言えば、自動車会社で働く従業員が、退職をした後に競合する他社に就職して、かつて在籍した会社の顧客に営業活動をする等の事例があります。使用者側の防衛策として、秘密保持契約を結んで、違反した場合には損害賠償の請求をするということがあり得ますので、今回は解説をいたします。

秘密保持契約や就業規則がなぜ必要となるのか

従業員は、在職中は、労働契約に基づいて使用者との間で秘密保持義務を負います。ただし、何が秘密であるのか等について争いが生じたり、そもそも従業員側が秘密保持の義務があることを知らないために違反をしてしまうということがありますので、秘密保持契約や就業規則によって、従業員が秘密保持義務を負っていることを明示しておくことは一度検討をして頂いた方が良いと考えます。

また、退職後の従業員については、秘密保持契約を結んでおかなければ、秘密保持義務を負わないと判断される可能性もありますので、退職後も秘密の保持をしてもらいたい場合は契約を結んでおく必要があります。

秘密保持契約の内容

秘密保持契約では、下記の事項を定めておく必要があります。

秘密保持義務の対象となる秘密情報の内容の定義

秘密保持の対象となる情報が「業務上知った機密情報」等の抽象的な表現のみで定義づけされますと、従業員が義務の内容を認識できませんので、せっかく契約をしても実効的でありません。

また、抽象的な定義づけをしていますと、従業員に過大な義務を課すものとして公序良俗に反して無効と判断される恐れがあります。

そのため、秘密保持義務の対象となる情報がどういったものであるのかを、具体例を挙げて定義づけをしておく必要があります。使用者側がこれは機密情報に当たると考える内容の情報は、なるべく契約書に記載をしておいた方が良いです。

秘密情報の複製や秘密情報を含む資料の社外への持ち出し・送付・送信の禁止

秘密情報の漏洩を防ぐためには、秘密情報の複製、及び、社外への持ち出し・送付・送信を禁止することが有効です。

退職時や使用者側が要求した場合の秘密情報等の廃棄

従業員が保持管理している秘密情報、及び、秘密情報を含む書類、電磁的記録媒体その他の記録媒体の一切については、退職時や会社が要求した場合に、使用者側へ返還、又は、廃棄・削除・消去することを約束してもらうと、外部への漏洩の危険が減ります。

違反した場合の法的責任

契約に違反した場合には法的責任を問われることを記載していなくても、契約違反を理由に損害賠償の請求をすることは可能ですが、従業員に認識を促す為にあえて明記しておくのが良いと思います。

退職後の秘密保持義務を定める場合の義務を負う期間について

退職後あまりにも長く、秘密保持義務を負わせると公序良俗違反という理由で契約が無効になる恐れがあるのですが、2年程度であれば有効であると判断した裁判例があります。

損害賠償請求

元従業員が、秘密情報を利用して退職後に使用者の顧客に営業活動を行い、使用者と顧客との間の契約を解約させた等の事実が認定できる場合、解約がされなければ得られたであろう売上について、元従業員に対して損害賠償請求をすることができる可能性があります。ある裁判例では、裁判所が、顧客との契約が解約されなければ、通常、1年程度は顧客から報酬の支払いを得ることができたというような認定をして、120万円程度の賠償を命じたという例があります。

また、従業員が顧客情報を外部に漏洩させ、そのことが顧客にも発覚した場合に、使用者は顧客から損害賠償請求を受ける可能性がありますが、この場合、使用者は従業員に対して、会社が顧客に対して本来であれば支払う必要のないお金を支払うことになったという理由で損害賠償請求をすることがあり得ます。

まとめ

以上の通り、従業員との秘密保持契約の締結と損害賠償請求ついて、解説をしました。細かく見て行けば、他にも様々な注意すべき点はございますが、弁護士は、その都度、事案について検討を行い、裁判例等の法的な根拠に基づいて、使用者側に対して助言を行っております。そのため、秘密保持義務契約の作成の仕方や、契約締結後の従業員や元従業員への対応についてお悩みの場合は、一度、当事務所へご相談頂けますと幸いです。

ご相談 ご質問
グリーンリーフ法律事務所は、設立以来30年以上の実績があり、17名の弁護士が所属する、埼玉県ではトップクラスの法律事務所です。 企業が直面する様々な法律問題については、各分野を専門に担当する弁護士が対応し、契約書の添削も特定の弁護士が行います。まずは、一度お気軽にご相談ください。 また、企業法務を得意とする法律事務所をお探しの場合、ぜひ、当事務所との顧問契約をご検討ください。

■この記事を書いた弁護士

弁護士法人グリーンリーフ法律事務所
弁護士 村本 拓哉

弁護士のプロフィールはこちら