工事の途中で突然下請会社が破産してしまった場合、元請会社及び孫請会社は不安定な地位に置かれてしまいます。工事の続行はどうすればよいのか、報酬金の支払い(または回収)はどうすればよいのかなど、判断の難しい相殺の問題も含めて弁護士が解説します。

下請会社が破産した時、どうすればよいか?

請負契約では、「工事を発注する注文者」と「工事を請け負う請負人」の二者だけが登場人物とは限らず、
注文者から直接工事を請け負った請負人=「元請人」
その元請人から工事を請け負った請負人=「下請人」
さらには、
その下請人から工事を請け負った請負人=「孫請人」
が登場することも多々あります。

このように、注文者→元請人→下請人→孫請人と工事が発注された契約関係の中で、下請人(下請会社)が突然破産してしまったら、どうなるのでしょうか。

以下では、元請人(元請会社)の立場、及び孫請人(孫請会社)の立場から、考えてみたいと思います。

 

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元請会社の立場から

工事の続行はどうすればよいのか?

下請会社が破産してしまった場合、その下請会社は営業を停止してますから、下請会社による工事も当然ながら停止してしまいます。
工事が遅れれば、元請会社は、注文者に対する関係で、工期遅れの責任(損害賠償責任)を問われてしまう恐れもあります。
そのため、工事の続行をどうするのかは、元請会社にとって喫緊の課題です。

このような場合に元請会社が真っ先にするべきことは、破産した下請会社の破産管財人と早急に連絡を取り、工事の続行について協議することです。

下請会社の破産管財人は、工事を続行するか、元請会社・下請会社間の請負契約を解除するか、選択することになっています。
この時、「完成間近なところまで工事が進んでいて、あと少しの人的・物的労力をかけて工事を完成させれば、下請会社から元請会社に対して報酬全額を請求できる」というケースでは、工事の続行が選択されることもありますが、大抵のケースでは、下請会社の破産管財人は請負契約の解除を選択することが多いです。

請負契約が解除された場合に工事を続行するには、
■速やかに別の下請会社を探して再契約する
■孫請会社が存在しているケースでは、その孫請会社との直接契約に切り替える
などの対応が必要です。

出来高部分の報酬金の支払いについて

下請会社の破産管財人によって請負契約が解除された場合、続いて、出来高部分に関する報酬金の支払いについて、破産管財人と話し合って金額を決めていく必要があります。
元請会社から破産管財人に対して支払う報酬は、工事全体の工程上の進捗割合によって算定していくことが多いようです。

下請会社に対して前受金を支払っている場合、
■出来高報酬が前受金を上回るときは、破産管財人からの請求に従って差額を支払う
■出来高報酬が前受金を下回るときは、破産管財人に対して差額の返還を請求する
ことになります。

孫請会社への立替払いについて

下請会社が破産すると、下請会社から報酬金を支払ってもらえない孫請会社が、元請会社に対して、「下請会社の代わりに、直接、報酬金を支払って欲しい」と請求してくることがあります。
元請会社としても、工事が中断してしまうのは困るので、このような請求に応じて、孫請会社に立替払いする―――ということがありますが、問題はないのでしょうか。

実は、上記のような立替払いをした後、元請会社が下請会社に対して負担する報酬金支払債務と、元請会社が立替払いをしたことによって取得した下請会社に対する求償金支払請求権とを相殺しようとした時に、そのような相殺が許されるかどうかという問題があります。

実務上は、元請会社・下請会社間で取り交わした請負契約書に、「下請会社が孫請会社に対する支払いを怠ったときは、元請会社がこれらを立て替えて支払うことができる」旨の条項や、「元請会社が、下請会社に対する債務と、立替金その他一切の下請会社に対する債権とを、相殺することができる」旨の条項が存在する場合もあるのですが、そのとおりにしてはいけないのでしょうか。

その答え(相殺が許されるかどうか)は、主に、元請会社が立替払いをした時期によって異なります。

破産手続開始決定「後」の場合

下請会社が裁判所に破産申立てを行い、裁判所で破産開始決定が出された後、元請会社が孫請会社に立替払いをした場合には、相殺は許されません。
このような場合にまで相殺を認めてしまうと債権者平等の要請に反しますし、何より、破産開始決定が出された後では元請会社に相殺に対する合理的な期待があったとは言えないからです。

この他、立替払いが、
■下請会社の破産申立て後に、その申立てを知りながら行われた場合
■下請会社の支払停止後に、その支払停止を知りながら行われた場合
も、同じく相殺は禁止されます。

「支払停止」というのは、例えば、下請会社が弁護士(申立代理人)を通じてこれ以上の支払いができない旨の通知を送った場合のことですが、判断に迷われた場合は、必ず弁護士に相談することをお勧めします。

破産手続開始決定「前」の場合

一方、裁判所で破産開始決定が出される前に、元請会社が孫請会社に立替払いをした場合は、どうでしょうか。
孫請会社からは、下請会社の経営状態が危ぶまれるという情報とともに、直接の立替払いを求められているのでしょうから、破産開始決定が出される前とはいえ、元請会社は下請会社が危機時機にあることを知っていると思われます。

この点、再生の事例ではありますが、元請会社が孫請会社に立替払いしたことについては、注文者に対する請負義務を履行する責任上、相当強い必要性があることや、立替払いできるとの請負契約約款の定めには相当の合理性があることを理由に、相殺は許されるとしたものがあります(東京高裁平成17年10月5日判決)。

破産の場合もこれと同様に考えられるとすると、破産開始決定前の立替払いであれば、相殺は許される可能性があります。

孫請会社の立場から

下請会社が破産した場合、孫請会社として最も困ることは、「報酬金を支払ってもらえなくなる」ということでしょう。

この場合、孫請会社は、債権者代位権を行使して、破産した下請会社に代わって、元請会社に対し、報酬金を支払うよう請求することができます。

ところが、元請会社がすでに報酬金を下請会社に支払ってしまっている場合には、債権者代位権を行使することができません。
そのような場合でも、元請会社が特定建設業者であれば、建設業法41条3項を活用して、都道府県知事に申請して、元請会社に対し、孫請会社へ未払いの報酬金を支払うよう勧告を出してもらう方法が考えられます。
なお、特定建設業とは、注文者から直接工事を請け負った際に、1件の建設工事につき合計額が4,000万円以上(建築一式工事の場合は6,000万円以上)の工事を下請に出す場合、取得が義務付けられている許可のことです。

また、孫請会社が、例えば、注文者から完成物を引き渡すよう請求された時には、留置権を行使して、「報酬金を支払ってもらえていないので、その支払いを受けられるまでは、完成物を渡しません」と主張して、引渡しを拒むこともできます。

迷ったら必ず弁護士に相談を

工事途中で下請会社が突然破産するという事態は、滅多にあるものでありません。
「下請会社が破産した」との報に、何をどうすればよいのか、慌ててしまうのももっともです。

しかしながら、慌てて取った行動が、法的には、実は間違っているということもあり得ます。
特に、「元請会社が孫請会社から請求を受け、直接孫請会社に立替払いをした後、自社の下請会社に対する報酬金支払債務と、自社の下請会社に対する立替金支払請求権とを相殺することができるか」という問題については、正確な法的知識がなければ判断を誤ることになり、「混乱の中で孫請会社に支払ってしまったが、実は相殺が許されないケースだった」という事態にもなりかねません。

その後にした相殺が無効になる、ということは、後日、下請会社の破産管財人から元請会社が請求を受けるということであり、下請会社の破産手続に巻き込まれてしまうことを意味します。

そこで、少しでも対処に迷われたら、必ず、専門家である弁護士に相談することです。

相殺が許されるかどうかは、「相殺の時期」や「元請会社と下請会社との請負契約の内容」によって結論が変わってきます。
また、先に紹介した裁判例(相殺は許されると判断したもの)でも、工事が完成して、もはや孫請会社による工事続行の必要性がないような場合の立替払いに基づく相殺については、原則として相殺権濫用になる旨述べており、個々の事例における相殺の期待の程度を検討・判断しなければなりません。

弁護士であればそのような法的な検討・判断ができますので、法的に正しい対処をし、後日、下請会社の破産手続に巻き込まれないようにするためにも、是非弁護士(それも法人の倒産事件を多く経験している弁護士)に相談して下さい。

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■この記事を書いた弁護士
弁護士法人グリーンリーフ法律事務所
弁護士 田中 智美
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