労働者との間で労働紛争が発生した場合、労働者が裁判所の手続を利用するのではなく労働組合に加入し団体交渉を申し入れてくるケースがあります。
今回は労働者から団体交渉を申し入れられた場合の注意点や団体交渉の対応を弁護士に依頼するメリットについて解説をしていきます。

労働組合とは何か?

そもそも労働組合とはどのような組織なのでしょうか。
労働条件等を決定するにあたり、労働者と使用者は対等な立場で協議することが望ましいとされますが、その力関係は必ずしも対等ではありません。
そこで、憲法は「勤労者の団結する権利及び団体交渉その他の団体行動をする権利は、これを保障する」として労働者に「団結権」、「団体交渉権」、「団体行動権」の労働三権を保障し、労働組合法において労働者の各権利の行使を阻害する使用者の行為を不当労働行為として規制しています。

労働組合は「団結権」に基づき労働者が組織する団体であり、労働組合法では「労働者が主体となって自主的に労働条件の維持改善その他経済的地位の向上を図ることを主たる目的として組織する団体又はその連合団体をいう」と定義されています。

労働組合の組織率は年々低下しており、令和3年時点の推定組織率は16.9%となっています。企業規模が小さくなるほどに労働組合の推定組織率は低くなり、大企業を除き社内に労働組合が存在するという会社は非常に少なくなっています。

そのため、最近では、合同労働組合や地域ユニオンといった業種別・地域別に組織された社外の労働組合に労働者が加入し、当該労働組合から使用者に対して団体交渉の申し入れがされるというケースが多くなっています。

使用者は団体交渉の申し入れを拒否できるか?

労働組合から団体交渉の申し入れを受けた場合、使用者はそれを拒否することはできるのでしょうか。
労働組合法は「使用者が雇用する労働者の代表者と団体交渉をすることを正当な理由がなくて拒むこと」を不当労働行為として禁じています。
これは労働者の「団体交渉権」の行使を実効的なものとするための規定であり、使用者が正当な理由なく労働組合からの団体交渉の申し入れを拒否した場合、労働組合は中央労働委員会への救済を求めることができ、使用者が救済命令に違反した場合には罰金や過料が科されるとともに、不法行為を原因とする民事上の損害賠償請求を受けることもあります。

そこから、使用者としては労働組合から団体交渉の申し入れがなされた場合、原則的にそれを拒否することができず、団体交渉に対応する必要があると考えておくべきです。
しかし、労働組合の要求をそのまま受け入れることまでが求められているわけではないため、そこは分けて考えることになります。

なお、以下の場合には団体交渉を拒否することに正当な理由があると判断される可能性があります。

・正当な交渉権限を有しない者から団体交渉の申し入れがされた場合
労働組合の代表者や組合員以外の者から団体交渉の申し入れがされている場合、使用者として正規のルートで団体交渉の申し入れを行うよう指摘することができます。

・労働組合の提示する団体交渉事項が義務的団交事項に該当しない場合
団体交渉事項は、使用者が団体交渉に応じなければならない「義務的団体交渉事項」と使用者が団体交渉に応じるべきかを判断することができる「任意的団体交渉事項」に分けられます。

「義務的団体交渉事項」とは、組合員である労働者の賃金、労働時間、休日、労働安全衛生、配置転換・懲戒基準等、労働者の労働条件や待遇、労使関係に関係する事項のうち、使用者が決定及び変更できる事柄に関する団体交渉事項をいいます。
他方、「任意的団体交渉事項」とは、上記以外の事柄に関する団体交渉事項、例えば、使用者の把握できない他社の労働者の労働条件や今後の経営方針、施設管理等に関する団体交渉事項をいいます。

明らかに「義務的団体交渉事項」に該当しない団体交渉事項について労働組合から団体交渉を申し入れられた場合、使用者として「義務的団体交渉事項」以外については団体交渉に応じないとの姿勢を示すことができます。

・これまで労働組合との団体交渉において協議を継続してきたが、双方の主張が平行線を辿り同じ議論の繰り返しとなる場合
特定の団体交渉事項について労働組合との団交交渉を重ねてきたが、ある部分で労使双方の意見が対立してしまっているため合意成立の見込みがなく、議論の進展も期待できないという場合、使用者としてこれ以上の団体交渉を継続することはできないとの対応をすることができます。

団体交渉にどの程度の対応をすべきか?

使用者が労働組合から義務的団体交渉事項について団体交渉を求められた場合にはそれに応じなければならないということは既に述べたとおりですが、使用者は単に団体交渉に応じさえすればよいのでしょうか。

使用者は労働組合からの団体交渉申入れについて形式的に応じさえすればよいとしてしまうと、労使の交渉力格差是正のために労働者に認められた団体交渉権が形骸化してしまうため、使用者には団体交渉に誠実に対応しなければならないとする「誠実団体交渉義務」が課されています。
使用者が団体交渉には応じているものの「誠実団体交渉義務」に違反する対応をしていると判断される場合、正当な理由なく労働組合からの団体交渉を拒否したものとして不当労働行為に該当することになります。

「誠実団体交渉義務」について、ある裁判例は、「労働組合法七条二号は、使用者が団体交渉をすることを正当な理由がなくて拒むことを不当労働行為として禁止しているが、使用者が労働者の団体交渉権を尊重して誠意をもって団体交渉に当たったとは認められないような場合も、右規定により団体交渉の拒否として不当労働行為となると解するのが相当である。このように、使用者には、誠実に団体交渉にあたる義務があり、したがって、使用者は、自己の主張を相手方が理解し、納得することを目指して、誠意をもって団体交渉に当たらなければならず、労働組合の要求や主張に対する回答や自己の主張の根拠を具体的に説明したり、必要な資料を提示するなどし、また、結局において労働組合の要求に対し譲歩することができないとしても、その論拠を示して反論するなどの努力をすべき義務があるのであって、合意を求める労働組合の努力に対しては、右のような誠実な対応を通じて合意達成の可能性を模索する義務があるものと解すべき」と判断しており、使用者が「誠実団体交渉義務」に違反するか否かの基準を以下の各点に求めています。

・労働組合の要求に対して、具体的な根拠を説明した上で回答しているか。
・労働組合の判断のため必要な資料を提示しているか。
・労働組合の要求を受け入れない理由を明らかにしているか。

このうち、団体交渉における使用者側の資料開示の程度について問題になることが多いのですが、裁判所は、労働組合から開示要求のあったすべての資料について使用者に開示することを求めているわけではありません。
労働組合から申し入れのあった団体交渉事項に直接の関係がない資料、労働者の労働条件の決定等に関係しない経営方針等に関する資料、対外的な漏洩禁止等を求められている資料等については労働組合に開示ができない理由を説明した上で開示を拒否することもあり得ます。

実際の団体交渉への対応はどのようにすべきか?

ここまで団体交渉の一般論について触れてきましたが、以下では実際に労働組合から団体交渉の申し入れを受けた場合の流れについて触れていきます。

団体交渉申入書の確認

労働組合から送付された団体交渉申入書の内容を確認します。
通常、団体交渉申入書には、労働組合名、担当者名、労働組合が希望する団体交渉の日時・場所、団体交渉を求める具体的事項の記載がありますので、まずはそれらを確認します。

団体交渉の日時・場所の決定

使用者側の都合がつく場合には別ですが、必ずしも労働組合が指定した日時・場所で団体交渉を行う必要はありません。
調整が必要な場合は早期に労働組合の担当者に連絡をして日程等の調整を行います。
一度の団体交渉があまりに長時間にわたることを防ぐため、双方に関わりのない外部の貸会議室等を時間制限付きで借りるということもあり得ます。

団体交渉の出席者の選定

労働組合側は労働紛争の当事者である労働者本人に加え、労働組合の委員長や書記長等複数のメンバーが参加することが多くなっています。
労働組合側の参加者が多くなると議論があちこちに広がり収集がつかなくなることがありますので、労使双方の参加者をある程度限定するということもあり得ます。
使用者側は誠実団体交渉義務との関係で求められている団体交渉事項についてある程度の権限を有する者の参加を検討すべきですが、社長等の代表者の参加は避けた方がよいケースが多いかと思います。
労働組合側は団体交渉の場で言質を取ろうと代表者の出席を求めてきますが、代表者の発言は文字どおり「重い」ものであるため、参加の是非については十分な検討が必要です。

回答・資料準備

労働組合が要求している団体交渉事項について、使用者側としてどのような回答を行うか検討します。
労働組合の要求に応じられるか、応じないとすればその理由は何か、すべては無理として一部であれば応じられるのか、代替案が存在するか等回答の内容を精査します。
それと並行して、労働組合側から資料開示の要求があれば、当該資料を開示することができるか、どの範囲で開示するか、開示しないとする場合にはその理由は何か、また、資料開示の要求がない場合でも上記の回答をするにあたり開示した方が分かりやすい資料があるかどうか等の確認を行います。

団体交渉当日

事前に準備した内容をもとに団体交渉に臨みます。
団体交渉の内容については双方録音をするというケースが多いため、録音機材を持参しましょう。録音は後日、各回の団体交渉の議事録を作成する場合にも役に立ちます。
労働組合から団体交渉の場で何らかの書面にサインをすることを求められることがありますが、これについては一旦持ち帰りサインすべきかどうか検討した上で対応するようにしてください。簡単な書面でも労働者の労働条件を変更する効力を有する可能性があるため注意が必要です。
時間内に交渉がまとまらなければ交渉は次回以降に持ち越すことになります。
その場合は再度、労働組合から団体交渉の申し入れがされるはずですので、使用者側としてはそれを待つということになります。
交渉の中で合意が成立した場合には合意書を取り交わし、双方、合意書に従った対応を取るということになります。

団体交渉の対応を弁護士に依頼するメリット

労働組合から団体交渉を申し入れられた場合、どのように対応すべきか悩む使用者が大半かと思います。
そのような場合には団体交渉の申し入れがされた段階で弁護士に相談することをお勧めいたします。

団体交渉の対応を弁護士に依頼するメリットは以下のとおりです。
・労働組合との交渉窓口となります。
団体交渉申入れへの回答やその他の調整を弁護士が行います。
窓口を一本化することでその後の団体交渉をスムーズに進めることができます。

・団体交渉へ出席します。
弁護士が団体交渉参加者とともに団体交渉に出席します。
使用者側の主張を端的に伝え、労働組合が回答を迫る重要事項についてその場での回答を避ける等の議事進行を行います。

・団体交渉継続の有無及び解決条件について提案を行います。
団体交渉を求められた労働紛争の種別に応じて、これまでの裁判例等を参考に適切な解決条件の提案を行うとともに団体交渉の状況に応じてこれ以上団体交渉を継続すべきか否かの判断を行います。

・合意内容のチェックを行います。
交渉が妥結した場合の合意内容について法的に不要な部分、または、使用者に一方的に不利な内容が含まれていないかの確認を行います。

まとめ

今回は労働者から団体交渉を申し入れられた場合の注意点や団体交渉の対応を弁護士に依頼するメリットについて解説をしてきました。
場合によって、労働紛争を裁判所に持ち込まれるよりも対応が困難となる可能性のある団体交渉は専門家の関与の必要性が高い紛争類型であると考えられます。
労働組合から団体交渉の申し入れを受けたがどのように対応してよいか分からない、身近に相談できる弁護士がいないという場合には、弊所までご相談いただければ幸いです。

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■この記事を書いた弁護士
弁護士法人グリーンリーフ法律事務所
弁護士 吉田 竜二
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