会社は日々様々な労働問題(従業員とのトラブル)を抱えていると思います。そこで本記事では、会社の経営者(使用者)が社員(従業員)とのトラブルにぶち当たった際に、どのように対処・対応していくべきかなどについて、弁護士が解説していきます。

会社が対応を迫られる事案

会社は、潜在的にも、多くの労働問題(従業員とのトラブル)を抱えていると思います。その中でも特に会社が悩まされがちな労働問題(従業員とのトラブル)の代表例は、以下のとおりです。

残業代(賃金)未払い

残業代や賃金が未払いとなっている場合、従業員からまとまった金額の残業代を請求される可能性があります。これは、なにもサービス残業を強いるいわゆるブラック企業に限られる話ではなく、会社側でも、知らないうちに、労働基準法上のルールを誤って理解し適用している結果、知らないうちに残業代や賃金が未払いとなってしまっているケースも数多く存在します。

特に、「固定残業代」、「裁量労働制」などの制度については、残業代の未払いが生じたりトラブルになったりするケースが多いため、十分注意する必要があります。
また残業代以外の賃金・手当の未払いについても、計算を間違えているケースがあり得るので慎重な対応が必要です。

さらに、「管理監督者」についても注意が必要です。
一般に、取締役などの役員は割増賃金を請求する権利はありません。
また、労働者であっても管理監督者など、経営者と一体的立場にある場合も時間外労働・休日労働の割増賃金を請求することはできません。
しかし、役職上は(形式的には)「管理監督者」という扱いをしていても、実質的には「名ばかり管理職」のように、実態として経営者と一体的立場とはいえない場合は残業代を請求する権利があります。

不当解雇

安易な解雇は危険

解雇権濫用の法理(労働契約法16条)により、客観的合理性・社会的相当性を欠く解雇は違法無効になるとされています。
安易に解雇を行い、後に労働者から解雇の無効を主張されて争いに発展するケースは数多くあります。そのため、何らかの理由で労働者を解雇する際には、特に労働法の規定を踏まえた慎重な検討が必要です。

現在の日本の労働法では、結論から申し上げると、使用者が労働者を解雇するハードルは非常に高くなっています。
解雇権濫用の法理(労働契約法16条)によれば、客観的に合理的な理由を欠き社会通念上相当であると認められない解雇は、解雇権の濫用として無効となります。

労働契約法
(解雇)
第十六条 解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。

仮に就業規則上の解雇事由・懲戒事由に該当すると会社が判断する場合であっても、具体的な事情に照らして解雇が重すぎる処分であると客観的に判断される場合には、解雇が無効とされる可能性もあり得ます。

退職勧奨

退職勧奨(たいしょくかんしょう)とは、会社が従業員を退職させるために退職を勧めることです。
退職勧奨をされても、最終的に会社をやめるかどうかの判断は、労働者が判断するので、会社が一方的に労働契約を終了させる解雇とは性質が全く異なります。

なお、解雇を避けて退職勧奨を行う際には、労働者側から退職金(解決金)などの条件を提示される可能性があります。
会社側としては、退職金(解決金)の支払いにより、その後の労働者との紛争を防止できるという点がメリットですが、その具体的な金額については、相場を踏まえて慎重に交渉、判断することが求められます。

違法なることもある

当然のことながら、退職勧奨の過程で、従業員に不当な心理的圧力を加えたり、従業員の名誉感情を不当に害するような発言をすることは、許されません。
これまで裁判所で違法と判断されたケースを基に考えると
① 社会通念上相当な程度を超えるほどに
② 不当な心理的圧力を加えたり、名誉感情を不当に害する言動を用いたりした場合

又は
③巧みな表現を使って、実際には退職を拒むことができるにもかかわらず、退職する以外に方法は無いと従業員に誤解させた場合
には、退職勧奨が違法なると考えられます。

労働災害(労災)

労働災害(労災)が発生した場合、従業員に対する賃金の支払いなどについては、慎重に対応する必要があります。労働災害が発生した場合、事業主には労働災害の防止義務・補償義務・報告義務があり、労働安全衛生法に基づく安全衛生管理責任を果たす行為が求められます。

万が一、これらの違反があると、労働安全衛生法上の処分を受ける可能性があります。
また、労働者側から損害賠償請求を受ける可能性もあり、その場合は訴訟を見据えた対応も必要になってきます。

ハラスメント問題

職場におけるセクハラ・パワハラを防止することは、会社の重要な責務です。
セクハラ・パワハラを放置すると、従業員の離職を招いたり、会社が安全配慮義務違反を問われて損害賠償を請求されたりする可能性があります。そのため、経営陣を中心として、現場からハラスメント問題に関する情報収集を怠らないことが肝要です。

近年は「パワハラ防止法」(改正労働施策総合推進法)も施行されました。また、厚生労働省はいわゆるパワハラ指針も公表しています。
このように、特に経営者に対しては、パワハラの知識を深めて防止に努めることが義務化されたため、これまで以上にハラスメントへの徹底した対策が求められています。

労働組合への対応

時間外労働に関する「36(サブロク)協定」や、「裁量労働制」などに関して、労働組合との労使協定の締結が法律上必要になる場合があります。
また、労働条件に関する団体交渉を労働組合側から申し入れられるケースもあります。
労働組合との交渉が決裂すると、労働者との深刻なトラブルに発展しかねないため、それぞれ適切な対応が求められます。

労働基準監督署への対応

労働者からの申告を契機として、労働基準監督署から会社に対して調査が行われるケースがあります。調査結果次第では、重大な行政処分を受けてしまうことにもなりかねません。法令上の規律に則ってきちんと説明できることが大切になります。

労働問題への対応を誤った場合に会社が被る損害やリスク

労働問題について、会社側が適切に対応しなかった場合、以下のような損失を被る可能性があります。

従業員に対する金銭の支払義務を負う

残業代の未払いが生じると、会社は未払い残業代の支払いとして、予定外の出費を強いられます。
また、不当解雇が認定された場合、解雇期間中の賃金を全額支払わなければならなくなるので、特に注意が必要です。

不当解雇では従業員を復職させる義務を負う

解雇無効の場合、解雇した従業員を復職させなければなりません。会社としては予定外の再雇用に等しく、人材配置に苦労する可能性が高いでしょう。

優秀な従業員の離職を招く

残業代の未払いやハラスメントなど、労働条件・労働環境に関する問題を放置していると、優秀な従業員の離職を招いてしまいます。このような事態は、中長期的に見て会社の大きな損失になり得るので、回避すべきです。

労働組合のストライキに発展する

労働組合には「団体行動権」が保障されており、労働条件の維持・改善を求めるストライキが認められています。労働組合側の言い分に理解を示さずに強硬な対応をとり続けていると、ストライキにより業務がストップし、会社として大きな損害を被る可能性もあります。

労働基準監督署からの行政処分・行政指導

労働基準監督署の調査の結果、労働基準法違反の状態が発覚した場合、行政処分や行政指導による是正が行われる場合があります。行政処分や行政指導への対応には多大な労力を要するため、常日頃から労働基準法を遵守して

会社のレピュテーション(評判)が悪化する

違法労働・ハラスメント・労働基準監督署からの行政処分や行政指導などは、その事実が社外に拡散する可能性もあり得ます。もしそのような事態となった場合は、労働管理が適切に行われていない会社として悪評が広まり、レピュテーション、会社ブランドが毀損される結果になりかねません。

上場承認の停止または廃止

会社が上場審査中の場合には、労働問題への対応には特に慎重を期す必要があります。上場審査ではコンプライアンスが重視されるため、深刻な労働問題が発覚すると、上場承認の進行に影響が出てしまうことも考えられます。

労働問題がそれほど深刻な状況に至っていない場合には、まずは弁護士に頼らず、自社だけで対応するケースもあると思います。ただその場合は、会社の対応により、より問題が複雑化、深刻化する可能性もあります。そのような事態に至ることを防ぐためには、以下の点につて注意しておくことが大切です。

法令に則って対応する

当然のことかもしれませんが、労働問題には、会社が法令上どのような義務を負うかを正確に理解した上で、それに則って対応するというのがあくまで基本的な姿勢となります。

訴訟などのコストが大きいことを意識して穏便な解決を図る
労働者から訴訟や労働審判を提起された場合、その勝敗にかかわらず、手続きへの対応自体に多大なコストがかかります。そのため、できる限り交渉で解決するほうが、結果的に会社にとっての損害を少なくすることに繋がります。もちろん、労働者が不合理な主張をしている場合には、やむを得ず徹底的に争うこともあり得るでしょう。

労務問題の解決は弁護士に相談すべき

これまで見てきたように、会社側には多数の労働問題(従業員とのトラブル)があります。
そして、これらの労務問題(従業員とのトラブル)に対して適切に対処・対応していくためには、慎重な判断・検討が必要になります。
そこで、是非そのような判断・検討にあたっては、弁護士のアドバイスを受けることをおすすめします。労務問題(従業員とのトラブル)の解決を弁護士に相談すべき理由は以下のとおりです。

弁護士に相談すべき理由

専門性が高い

日本の労働法では、様々な法律・規定を根拠に、数多くの制限がある上、それらの制限も極めて専門性の高い内容となっています。そのため、これら労働法を正しく理解していないと、誤った判断をしかねません。
そこで、法的な理論武装をすることが大変重要となります。

労働者の言い分が合理的かどうかを見極めることができる

紛争の深刻化を防ぐため、労働者側の言い分が合理的であれば、妥協して受け入れるのも有力な選択肢です。
これに対して労働者側の言い分が不合理であれば、合理的な範囲の主張に収めるよう、労働者と交渉していかなければなりません。
この労働者の主張の合理性の見極めを行うには、やはり専門的知見からの詳細な分析・検討が不可欠です。

訴訟や労働審判に発展してもスムーズに対応できる

労務問題(従業員とのトラブル)が深刻化すると、その後訴訟や労働審判に発展する可能性があります。
弁護士は訴訟・労働審判の手続きに精通していますので、十分に準備を整えたうえで手続きに臨むことができます。

労務問題の予防策についてもアドバイスを受けることができる

会社にとっては、労働問題(従業員とのトラブル)が発生しないに越したことはありません。普段から労働基準法その他の法令を遵守した企業体制を徹底することで、労働問題(従業員とのトラブル)発生リスクを最小化することができます。
弁護士に相談すれば、今後労働問題(従業員とのトラブル)を防止するための予防策についても、アドバイスを受けることが可能です。

会社対応により、事態が悪化する危険性がある

会社が解雇などの一定の処分を一度でも行うと、法的な権利関係に変動を与え、元に戻すことができなくなる場合があります。
そのため、会社が一定の処分や行動を起こす前の段階で、その後のリスクの程度も検討しておくことが必要です。
その後交渉が決裂し、労働審判や訴訟に進んだ場合、会社の当初の対応が裁判所から問題視される(判断に悪い影響を与える)という可能性もあります。
会社が解雇などの一定の処分を行う前に、それまでの会社の指導などの事前対応が十分であったかどうかなど、その後のリスクがどの程度になるかを十分に検討しておくことが重要です。

紛争が長期化、裁判所に持ち込まれるケースが増えている

労働問題(従業員とのトラブル)については、交渉だけでは解決とならず、従業員から労働審判や訴訟を起こされるケースがあります。その場合、紛争も長期化していきます。
そこで事前に「問題社員対応に強い弁護士」に相談し、事前の対応・準備をきちんと行っておくことが重要です。

弁護士に相談することで進め方が明確になる

弁護士に相談することで、自社のケースにあった対処・対応を事前に打ち合わせることができることも大きなメリットです。

労働問題が得意な弁護士の選び方

弁護士に依頼する場合は、労働問題を得意とする弁護士に依頼すべきです。
弁護士も「専門/専門外」あるいは「得意分野/不得意分野」があります。お医者さんも内科医と外科医など専門が分かれているのと一緒です。風邪の症状があってそれを治してもらうには内科医の先生に診てもらいますよね。風の症状で外科医の先生にはお願いしないと思います。
労働問題も、労働問題を専門的に扱い、得意とする弁護士に依頼すべきです。

退職勧奨の前に弁護士に相談することも有効

以上、退職勧奨の方法や進め方の注意点などを解説してきました。
もっとも、実際に退職勧奨を行う際は、事前に企業の労働問題を扱っている弁護士に相談いただくのが間違いないと思います。
その理由は以下のとおりです。

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■この記事を書いた弁護士
弁護士法人グリーンリーフ法律事務所
弁護士 小野塚 直毅
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