事案の内容
依頼者である会社は求人募集をかけていたところ、華々しい経歴の求職希望者からの要望を受け、その求職希望者を試用期間を設けて採用しました。ところが、当該従業員は、経歴以前の社会常識が不足しており、上司とのコミュニケーションがうまくいかず、上司の指示にも従わず、仕事上何ら成果を出すことができませんでした。そこで、会社側は、当該従業員に対し、試用期間をもって辞めてもらう・正規従業員として雇用することはできないと判断し、当該従業員に告げました。
後日、当該従業員は弁護士に依頼し、労働審判を申し立てるに至りました。

事案の経過(交渉・調停・訴訟など)
弁護士が会社の人事担当者等の話しを聞いてみると、試用期間はあくまで「試用」=「お試し」期間であり、この期間に問題があれば、正規従業員として雇用契約を締結しなくても良いと考えていることが分かりました。この考え方は、むしろ社会的には常識的な考え方だと思います。しかし、法律の考え方からすると、試用期間中であっても、あくまで解雇は解雇であり、解雇の有効性が認められるには高いハードルがあります。
次に、会社における、当該元従業員への、指導・是正措置・このままでは試用期間満了とともに雇用契約が終了することの説明・弁明の機会の付与等、手続を踏んでいるかどうか確認したところ、ほとんど行われておらず、行われている部分についても証拠が乏しい状態でした。
このような状況下においては、会社側が極めて不利であることを説明しながらも、できるだけ、当該元従業員の問題行動の内容や、解雇通知書記載の解雇理由を裏付ける事情を裏付ける資料の集め、反論書面を作成の上で労働審判に臨みました。
労働審判では、元従業員が、自分は何も問題ある行為を行っていない旨詳細に主張していたため、まずは自由に発言してもらい、弁護士からそれを弾劾する(元従業員の主張は嘘である)根拠資料を裁判所に提示して、期日を進めていきました。また、解雇に至るまでのいきさつや指導内容を詳細に反論していきました。

本事例の結末
裁判所は、あくまでも勤務開始当初からの指導・是正・説明不足であることだけを捉え、当該従業員の問題行動を拾うことなく、解雇無効であるとの心証を示しました。会社としては、このまま引き下がるわけにはいかないという思いを持っていましたが、弁護士から何とか説得し、旗色が悪いため早期撤退して傷を浅くすること、損害を最小現に食い止めることを目標にするよう切り替えることになりました。
結果、早期解決のためという名目の下、本来支払うべきバックペイの3割をカットすることができました。

本事例に学ぶこと
「試用期間」という日本語と、法律上の言葉とはマッチしていません。事実上、お試し期間という意味での「試用期間」」というのは存在しないものと考えた方が良いです。
労働審判になってしまった際には、いかに反論・防御するのか、いかに方針を切り替えるのか、裁判所の端々に出る意向を確認しながら、瞬時に対応していく必要があります。弁護士が、事前に情報を得て、主張を組み立てた上で、労働審判期日当日に臨機応変にアドバイスをしていきますので、労働審判を申し立てられてしまった場合には少しでも早く弁護士に依頼することを強くお薦めいたします。

弁護士 平栗 丈嗣