定年制の導入を内容とする就業規則変更の有効性

従前、会社に定年についての定めがなかったため、定年制を導入するために就業規則を変更するというケースがあり得ます。

定年制は労働者の勤務可能年限を定めるものであり、定年制の有無は労働者の生活設計に大きな影響を及ぼします。

今回は、定年制の導入を内容とする就業規則変更の有効性について、最近の裁判例を紹介する形で解説をしていきます。

定年制とは?

定年制とは?

定年制は、会社が、就業規則等で定める年齢に労働者が達した場合に労働者との労働契約を終了させることを内容とするものです。

労働者を雇用する会社の多くが定年制を導入しており、定年とする年齢は会社が設定することになりますが、高年齢者雇用安定法により定年年齢は60歳以上とする必要があります。

就業規則の変更

就業規則の変更

就業規則の変更について、労働契約法は、「使用者が就業規則の変更により労働条件を変更する場合において、変更後の就業規則を労働者に周知させ、かつ、就業規則の変更が、労働者の受ける不利益の程度、労働条件の変更の必要性、変更後の就業規則の内容の相当性、労働組合等との交渉の状況その他の就業規則の変更に係る事情に照らして合理的なものであるときは、労働契約の内容である労働条件は、当該変更後の就業規則に定めるところによるものとする。ただし、労働契約において、労働者及び使用者が就業規則の変更によっては変更されない労働条件として合意していた部分については、第十二条に該当する場合を除き、この限りでない」と定めています。

変更後の就業規則の内容が労働者に不利益となる場合でも当該変更に合理性が認められる場合には就業規則を変更することにより労働者の労働条件を変更することができます(特定の労働条件を変更しないとする労使間の合意がある場合は除かれます)。

定年制を導入する就業規則の有効性が争われた事案(東京地判令和8年1月28日)

定年制を導入する就業規則の有効性が争われた事案(東京地判令和8年1月28日)

事案の概要

・会社には、従来、就業規則が存在せず、定年制や退職金制度に関する定めも置かれていませんでした。また、会社が従業員に対して将来にわたって定年制を設けないことを約束したという明確な事実は確認されていませんでした。

・従業員数が10人に達したことを契機に、会社は平成30年3月16日、全従業員に対し、メールで新設する就業規則の案文を送付し、同月26日に発効する旨を通知しました。就業規則案には、定年制度として「正社員の定年は満65歳直後の賃金締切日とする。ただし、規則実施時に定年年齢を超えている者の定年は68歳直後の賃金締切日とする」との規定(55条1項)が盛り込まれ、併せて定年後に最長70歳まで1年ごとの嘱託社員として再雇用し得る規定(同条2項)が設けられました。

・会社には退職金制度が設けられていませんでした。

・就業規則の施行により4か月もしくは2年7カ月で雇用契約が終了する従業員が存在しました。

・会社側は過半数代表者の候補者を指定してその選出に関与し、就業規則案の提示から意見提出期限までを約6日間と設定しました。従業員から考慮期間の延長等が求められましたが、過半数代表者から「異議なし」との意見書が提出され本件就業規則が施行されました。

裁判所の判断(就業規則変更の効力を否定)

裁判所は以下の判断を行い定年制を導入する就業規則変更の効力を否定しました。

・本件就業規則における定年制は、従業員が所定の年齢に達したことをもって自動的に雇用契約を終了させるというものであり、この定年制を設けることは、労働者の意思によらない退職事由を追加するものであるから、労働者にとって不利益な労働条件の変更に当たることは明らかである。

・被告会社において従前から定年制が労働条件になっていたとは認められない。

・労働契約法10条は、文言上は就業規則の「変更」について定めたものであるが、立法時に就業規則の新設の場合に同条を類推適用することが否定されたとは認められない。

・本件就業規則における定年制は、定年年齢を65歳(施行時に同年齢を超えている者は68歳)とし、定年年齢に達した直後の賃金締切日をもって定年退職とするというものであり、これと併せて、定年後は最長で70歳直後の賃金締切日まで1年ごとに嘱託社員として再雇用することがあるとされている。

定年制は、一般的にみれば、人事の刷新・経営の改善など企業の組織及び運営の適正化のために行われるものであって、現在の社会情勢の下でも、不合理な制度ということはできない。定年年齢を原則として65歳としている点についても、それ自体は、高年齢者等の雇用の安定等に関する法律において、定年年齢の下限が60歳とされ、65歳未満の定年年齢を定めている事業主に対して65歳までの高年齢者雇用確保措置を講ずることが義務付けられていること(同法8条、9条)に照らして、合理的な内容といえる。

本件就業規則では定年後の再雇用の余地が残されており、労働者の受ける不利益は一定程度緩和されている。

・しかしながら、原告らについてみると、本件就業規則の施行時に原告甲野は67歳、原告乙山は65歳であって、本件就業規則が施行されれば、原告甲野はわずか4か月で定年退職となり、原告乙山は2年7か月で定年退職となる状況にあった。

このように、定年退職となる時期が差し迫っていたことを踏まえると、本件就業規則における定年制によって、原告らの受ける不利益は非常に大きいといえる。

・将来にわたって定年制を設けないことが約束されていたとは認められない。

・原告甲野は、平成29年6月頃から、被告丙川に対し、取引先との取引に関する被告丙川の指示が誤っているなどと指摘し、他の従業員にもその旨を伝えることがあり、被告丙川は、同年12月27日、原告甲野に対し、被告会社の従業員に対して被告丙川が誤った連絡や指示をしているように伝えることは慎むようになどと伝えたものであり、この頃には原告甲野と被告丙川との関係が悪化していたと認められる。

被告会社は平成30年1月頃に原告甲野をサービス部に異動させ、被告丙川は同年2月には原告甲野に対して給与減額を求めて原告甲野が自ら給与減額を申し出る体裁の書面を提出させており、原告甲野の待遇が引き下げられている。当時の原告甲野と被告丙川との関係がこのような状況になっていたことに加えて、本件就業規則が施行されれば原告甲野はわずか4か月で定年退職となること、それにもかかわらず施行時に65歳以上の者の定年年齢が68歳とされたことを考慮すると、被告丙川は、就業規則の新設を契機として定年制を設けることによって、原告甲野を退職させる意図を有していたものと推認される。

・使用者は就業規則の作成について労働者の過半数を代表する者の意見を聴かなければならず、この過半数代表者の選出に当たって使用者が選出過程の全部又は一部に関与する方法によることは不適切であると解されるが、前記のとおり、本件就業規則の新設に当たっては、被告丙川が過半数代表者の候補としてCを指名して選出過程に関与しており、過半数代表者が適切に選出されていない。また、前記のとおり、各従業員が就業規則等の案文を示されてから意見等の提出期限までの期間は6日間と比較的短期間である。

・本件就業規則における定年制の新設は、原告らについてみると、原告らの受ける不利益が非常に大きいといえ、被告丙川が原告甲野を退職させる意図を有していたものと推認され、労使交渉に不適切なところがあるものであるから、労働者の受ける不利益の程度、労働条件の変更の必要性、変更後の就業規則の内容の相当性、労働組合等との交渉の状況その他の就業規則の変更(新設)に係る事情に照らして合理的なものであるとはいえない。

・本件就業規則における定年制は、労働契約法10条所定の要件を欠き、原告らと被告会社との間の雇用契約の内容とはならないから、本件就業規則によって原告らが定年退職したとは認められない。

まとめ

まとめ

今回は、定年制の導入を内容とする就業規則変更の有効性について、最近の裁判例を紹介する形で解説をしてきました。

会社における定年制の導入は一般的なものとなっており、就業規則の変更により定年制とすること自体の合理性は認められるものと思われますが、その変更が特定の従業員の退職を目的とするものである等の事情が明らかな場合には就業規則変更の効力が否定されることがあります。

裁判例の事案では事後的に就業規則の変更の効力が否定されたことで、従業員は定年退職をしていないということになり、会社側が従業員に対して多額の金銭支払いを命じられることとなりました。

労働者の将来の生活設計に大きな影響を与える労働条件の変更を加える場合にはその背景事情や変更までの手続について慎重に検討をした上で進めることをお勧めいたします。

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この記事を書いた弁護士:弁護士 吉田 竜二

労働問題

弁護士法人グリーンリーフ法律事務所・埼玉弁護士会所属の弁護士。
平成26年の弁護士登録後、労使双方の立場から多数の労働紛争に対応。
協議、団体交渉、労働審判、訴訟のいずれにおいても豊富な実務経験を有し、事案の性質に応じて依頼者に最適・最善の解決方法を提案、その実現に注力する。