退職の時期(いつでも可能か)

労働者から、会社を辞めたいと退職願を提出された場合、いつまでの申出であれば、その申出を受け入れる必要があるか、誤解されているケースが散見されます。就業規則で、労働者が退職するには、3か月前までに会社へ申し出なければならない旨の規定を置いているのだから、それより短い期間内での労働者からの退職願を受け入れる必要がないと考えられているケース、後任者が見つかるまでは職責を果たす義務があって退職することができないことを定めるケースなどです。これらの規定は、無効となることが多いのです。

無期雇用の場合

退職日については、民法上、解約の申入れの日から2週間を経過することによって雇用契約が終了します。労働者には、退職の自由が保障されるため、この民法上の規定より不利な就業規則の規定は無効となります。
さらに、この2週間の間、有給を消化してから辞める、つまり、退職の意思表示をしてから出社しないとの要望がなされる場合があります。労働者からの有休取得の要望に対しては、時季変更権の行使を主張することが考えられますが、もう辞めると言っている以上、2週間の範囲内で別の時期に有給取得の時期をずらすよう指示することはできなくなります。したがって、このような労働者の要望に従わざるを得ません。
もっとも、最低限の引継ぎをしてもらわないと、会社業務は混乱し、正常な業務をすることができなくなる場合があります。この場合には、最低限の引継ぎをしてから辞めるように指示をすることはでき、これに従わずに放置して辞めてしまった労働者に対して損害賠償請求をすることも認められます。しかし、引継ぎ業務というのは無限に考えられるため、過大な内容の引継ぎ業務をしなければ退職を許さないとする指示は、退職の自由を潜脱するものとして認められず、これに違反した労働者に対する損害賠償請求は認められないこととなります。

有期雇用の場合

期間の定めのある場合、「やむを得ない事由」がある場合にのみ、労働者は直ちに契約の解除をすることができます(民法628条)。やむを得ない事由とは、労働者が病気やケガによって長期間就労ができない場合や、会社側の賃金未払や労働基準法等の労働法違反により労働を行うことが困難な場合などがあります。この場合、労働者の一方の過失によるときには、会社に対して労働者は損害賠償責任を負うことになります。したがって、有期雇用で突然退職の意思表示をしてきた労働者に対しては、やむを得ない事由がない場合には損害賠償責任を追及する可能性がある旨通知することが考えられます。
ただし、1年を超える期間を契約期間と定めた労働契約の場合には、上記にかかわらず、1年を経過すれば、労働者はいつでも退職できることに注意が必要です。

退職時に秘密保持義務に関する誓約書を差入れさせることができるか

労働者が退職するにあたって、会社勤務時に知った顧客情報等について、外部への漏洩を避ける必要があります。そこで、就業規則に退職後の秘密保持契約条項を設けておいたり、労働者を雇い入れるときに、秘密保持義務についての誓約書を書かせたりするべきです。しかし、そこまでの準備をしていない場合には、退職時に秘密保持義務についての誓約書を書いてもらうことで、当該労働者が秘密を口外することを抑止することができます。
もっとも、労働者が退職時に、誓約書を書くか書かないかは自由です。誓約書を書かない限りは退職を認めないとした場合には、当該会社の行為は違法なものと判断されるおそれがあります。また、仮に退職の条件として誓約書を書かせた場合には、労働者による誓約行為自体、詐欺・脅迫・錯誤を理由に法的有効性が争われる余地を残すことになっていまいます。
そこで、就業規則にまだ定めがないのであれば、できるだけ速やかに、就業規則の変更の手続きをとることが必要となります。これは、労働者に不利益な変更となりますが、労働契約法10条にしたがって、合理的なものと考えられるため、変更することはできるでしょう。

退職代行業者(弁護士/弁護士以外)に対する対応

昨今、退職代行業者による、労働者の退職連絡がなされることが散見されるようになりました。退職代行業者が、弁護士なのか、そうでないのかによって、当該業者が行うことができる業務内容に大きな違いがあるため、注意が必要です。
退職の申出という行為は、労働契約を終結させる法律効果を生じさせる法律行為であり、労働者ではない他者が申出を行う場合には、代理権が必要となります。そして、報酬を得て法律代理行為を行うことは、弁護士しかできません。これに反する場合、弁護士法違反として罰則が科されることになります。
したがって、弁護士以外の退職代行業者には代理権は存せず、ただ「退職します」ということを告げるだけの使者という立場しかありません。退職代行業者からの退職の意思表示は、それそのものだけでは、有効性に疑義が生じるおそれがあります。そのため、弁護士ではない退職代行業者からの通知をそのまま真に受けることは危険な場合があります。そこで、労働者本人に対し、本心・真意に基づく退職の意思表示がなされているのか、確認する必要があります。なお、本人への直接の連絡を禁じる文言が記載されている場合がありますが、当該文言には強制力はありません。
もっとも、退職代行業者を利用する時点で、労働者本人に真意を確認することは困難でしょう。そこで、退職代行業者に対し、本人の真意であることを確かめる資料の提出を要望することになります。具体的には、退職代行業者を通じて、労働者本人からの依頼の状況を確認したり、本人の真意を把握することができる資料の送付を依頼したりすることになります。
これに対し、弁護士からの退職の意思表示がなされた場合には、代理権を授与した旨の委任状の交付を求めることで足りることになります。
結局のところ、弁護士ではない退職代行業者を利用した退職をする場合、労働者にとっても会社にとっても、法的安定性に欠けるため、かえって面倒なことになるおそれがあります。

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