ハラスメントその他の解雇事由がある従業員に対しては、懲戒処分をすることが考えられます。ただ、懲戒処分は処分を受ける従業員に対して不利益を与えるものですから、処分そのものが適切にされる必要があります。処分の軽重も問題となりますが、手続の適正も重要です。そこで今回は懲戒処分の流れについて懲戒処分をする際の注意点を含めて説明していきます。

懲戒処分をする際の手続の流れと注意点

懲戒処分とは

 懲戒処分とは、業務命令や服務規律に違反した従業員に対し、使用者たる会社側が制裁として行う不.利益措置のことです。

具体的な対象行為としては、職場における行為であることが中心的ではあるものの、職場外の行為であっても、会社の経営に悪影響を与える場合や会社そのものの社会的評価に重大な悪影響を与えるような場合には、当該行為を理由に懲戒処分を行うことが許される場合があります。

労働基準法89条は、就業規則の規定内容を定める規定ですが、同条9号では「表彰及び制裁の定めをする場合においては、その種類及び程度に関する事項」を記載することになっており、「制裁」すなわち懲戒処分する場合には就業規則の定めが要るという形になっています。

 すなわち、懲戒処分をするためには、事前に就業規則においてその処分を定めておかなければならない、ということです。

懲戒処分をするための流れ

懲戒処分をするためには、以下のような手続を踏む必要があります。

弁明の機会の付与

処分を受ける者の弁明

懲戒処分の通知

懲戒処分の通知

 懲戒処分を受けた従業員からすれば、処分の対象となった事実の有無及び程度が非常に重要なものになります。

そもそもそのような事実は認められないと争われる場合もあるので、当該通知においては、①誰が、②いつ、③何を、④どうして、⑤どうなったのか、という経緯が明確にされていなければなりません。

また、たとえば一度懲戒解雇の処分が出され、その根拠となった事実について争われた際に、事後的に懲戒理由を追加してしまえば、上記のような弁明の機会も意味がなくなってしまいますし、そもそも懲戒処分の正当性も疑われることになってしまいますから、懲戒理由は後で変更したり追加するということはできません。

したがって、懲戒解雇の通知書は漏れなく記載をしておく必要があります。

懲戒処分と就業規則

上記のとおり、就業規則において懲戒事由を定めておく必要があるわけですが、実務上は懲戒事由の中に「その他前各号に準ずる事由」という包括的な事由を記載しておくことが多いかと思います。したがって、就業規則に記載された懲戒事由にぴったりと一致する事項がなくても、当該就業規則の規定に類似する・同じような悪質性を有する非違行為についても、処分ができることが多いでしょう。

もちろん、対象となる非違行為と懲戒処分とのバランスは重要であり、このバランスがとれていない懲戒処分については無効とされてしまいます。

そして、就業規則には記載があるものの、実際に会社の中で運用されていく中で懲戒されてこなかった非違行為について、突然懲戒処分をするということになれば、「なぜこのケースは懲戒処分をするのか」として、懲戒権の濫用が問題となることもあります。 

就業規則があること、非違行為と懲戒処分にバランスが取れていること、懲戒権の濫用とならないこと、それぞれが重要といえます。

 懲戒処分をした際には、これまでの懲戒事由・処分に関する実際の運用も重要であることに留意が必要です。

懲戒処分の通知の方法

 懲戒処分の通知においては、

・日付
・処分を命ずる主体(使用者)
・具体的な懲戒処分の内容
・懲戒処分をする根拠となる非違行為の内容
・当該行為が就業規則上の該当箇所

を明記します。

諭旨解雇の特殊性

諭旨解雇をする場合の注意点

懲戒処分は、処分が軽い順から譴責、訓告、戒告、減給、出勤停止、降格、諭旨解雇(諭旨退職)、懲戒解雇があるとされていますが、その中でも諭旨解雇については、一度従業員側に退職を促すという点で他の処分とは違った面があります。従業員が退職を拒み退職届を出さない場合には、懲戒解雇をする、という段階を経るため、具体的に「いつまでに退職届を出すべきか」ということを明らかにし、退職届を提出しない場合は懲戒解雇処分となる旨を通知しなければなりません。

 また、懲戒解雇は非常に重い処分ですので、懲戒処分とすると重すぎる・懲戒処分までは手続に不足がある、という場合に備え、予備的に普通解雇も通知することがあります。

諭旨解雇の通知内容

諭旨解雇の通知をする場合の通知書には、上記の懲戒処分の通知のように「日付、処分を命ずる主体(使用者)、具体的な懲戒処分の内容、懲戒処分をする根拠となる非違行為の内容、当該行為が就業規則上の該当箇所」を入れますが、その中でも「具体的な懲戒処分の内容」として、

「就業規則の規定に基づき諭旨解雇処分を行う」ということと、「令和●年●月●日午後●時必着」で、「退職届の提出をすること」と「その提出の方法」、「退職届の提出がない場合」に「懲戒解雇処分」あるいは「普通解雇」をすることも記載しておく必要がある、ということです。

ルールの明確化

上記のとおり、懲戒処分について、就業規則において定めておくことは重要ですが、社内で実際に運用がされていないと、懲戒権の濫用となることもあります。

 社内ルールとして明確化されているか、就業規則通りに運用されていたかが重要ですので、社内での運用を明らかにするため「懲戒処分」については社内で周知をしておくことが大切です。

社内で就業規則違反が認められる場合には、当該行為について就業規則に反することを示し、違反行為によって処分がされること、ただちに行為を止めるよう呼びかけをしていく、ということが重要でしょう。

このような会社の取り組みがあってもなお当該行為を続けていれば、懲戒処分をすることの正当性も否定し難くなるのではないでしょうか。

懲戒処分を公表する場合

プライバシーへの配慮

懲戒処分は、当該問題社員への制裁という意味もありますが、社内の規律を他の従業員にも理解してもらうという意味もあるでしょう。そこで、会社としては、懲戒処分したことを社内公表したいという場合があります。

社内公表自体には問題はないのですが、社内を公表するということは当該問題社員の名誉を傷つけるということも意味しています。したがって対象者の「氏名」は公表せず、問題行為についても事案は簡潔にして、それに対する処罰内容を示すに留めるべきと考えられます。

問題行為がハラスメントである場合など、被害者がいる非違行為でも、被害者は加害者が適切に処罰を受けていることが分かるので、被害者救済という意味でも公表自体は大切なことです。

そして他の社員に対しても非違行為を許さないという姿勢を示すことができ、再発防止に役立ちます。

昭和の裁判例においては、従業員が横領事件を起こした際に、取引先へ「懲戒解雇の事実」と「当該従業員の氏名」を通知したという事例において「業務慣行からすると逸脱した異例の措置とは言えない」としたものがありますが、これは令和の時代においては取引先に対して懲戒解雇の事実を告げる行為は過剰であり、必要性が認められないと考えられます。取引先であれば、業務担当者が変わることを知らせることも必要でしょうが、しかし業務担当者が変わる理由として非違行為の内容まで通知する必要はありません。

過剰な公表には、「社会的に相当と認められる限度を逸脱している」ものとして、懲戒処分を受けた従業員から会社に対する慰謝料請求が認められたケースもあるので、懲戒処分を公表する目的は、再発防止・社内の秩序維持にあることを忘れず、その公表の範囲・方法には十分に注意しましょう。

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■この記事を書いた弁護士

弁護士法人グリーンリーフ法律事務所
弁護士 相川 一ゑ

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