紛争の内容
A社の社長様が、退職した元従業員から労働審判を申し立てられたとしてご相談に来られました。
経緯としては、数か月前に自主退職した元従業員から、突然、「会社のせいでうつ病になったから慰謝料を払え」という手紙が届いたとのことで、詳しい事情を教えてもらえず要求に応じなかったところ、労働審判が申し立てられたという状況でした。

交渉・調停・訴訟などの経過
労働審判の期日の中で、双方に対して、詳しい事実の聞き取りや主張の確認などが行われました。
その結果、元従業員がうつ病に罹患していることは(診断書等から)事実であると思われましたが、それが会社の責任であるか(会社の安全配慮義務違反等によるものか)、損害額はいくらか、というような重要な点については疑問が残る状況でした。
弁護士からは、元従業員側の主張・立証が足りないことを指摘し、さらに会社側に責任が無いことについて勤務状況等を具体的に主張する等して、労働審判官・労働審判員の理解を得ました。
また、慰謝料以外にも様々な主張・請求がありましたが、そのいずれも根拠が無いことを反論し、これらについても労働審判官・労働審判員の理解を得ることができました。

本事例の結末
労働審判の期日の中で、調停(話し合いでの解決)の可能性を検討することとなりました。
その結果、会社側から、元従業員が在職中頑張ってくれていたことは事実だとして、40万円の解決金を支払うことで本件を解決する旨の調停が成立しました。

本事例に学ぶこと
労働審判は、「審判」という労働審判委員会が結論を決める(どちらが勝ちか負けかを決める)機能を持つ一方、「調停」という話し合いでの解決を促すという機能も持ちます。
本件で労働審判をするとするならば、現状の主張内容や証拠関係からすると、おそらく、元従業員の請求は棄却されていたと思われます。
しかしながら、審判で白黒をつけてしまうことは、時として、当事者の「納得」を引き出せず、かえって問題の長期化や後味の悪さを引き起こしてしまうことがあります。
本件の場合は、例えば、労働審判において自分の主張が一切認められないとされた元従業員が、異議申立てをして、訴訟に移行する(すなわち問題が長期化する)ことも考えられます。また、かつては共に頑張っていた「戦友」との争いが続く心理的負担もあると思います。
そのため、例え「勝てる場合」でも、話し合い(調停)で解決するという選択肢については十分に検討の余地があるのです。
審判・判決で決着をつける際の見通しをベースに、どのような解決策があり得るのか検討することは、まさに弁護士の領分です。本件のように話し合いで解決する(示談・調停・和解等)ことも、審判・判決までいくべきと思われることも、両方あり得ます。
そのような選択肢の中で、ご自身や会社にとってどのような解決がより良い結果をもたらすのか、是非一度弁護士にご相談されてご検討ください。

弁護士 木村綾菜