厚生労働省は、9月から、労働基準監督署による時間外労働についての企業への指導を見直すこととしました。

本コラムでは、この指導に関連して、時間外労働(残業)について解説します。

そもそも「残業」とは?

労働基準法では、働く時間の上限が以下のように決まっています。

1日8時間・1週間で40時間まで

これを超えて働いた時間が、すべて「残業(時間外労働)」となります。

たとえば、朝9時から夕方18時まで(休憩1時間)働くと実働8時間です。もし19時まで働いた場合、その「1時間分」が残業代の対象になります。

労働基準監督署における対応の見直し

これまで労働基準監督署は、時間が・休日労働時間を1ヶ月45時間以内に収めるよう指導していましたが、経済界の要望を受け、自民党が提言し、この9月から指導が緩和されることになりました。

(以下厚生労働省HPより引用)

「時間外・休日労働時間数のみに着目して1か月45時間以内への削減を求める一律の指導を見直し、各事業場が36協定で定める健康及び福祉を確保するための措置の実施状況を重点的に確認し、確認した状況に応じた必要な指導を行うこととします。なお、個々の事業場の実態を踏まえて、過重労働による健康障害が生じるおそれが高い場合には、引き続き必要な指導を行います。」

https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_75454.html

他方で、これに対しては、労働組合などから、長時間労働の助長につながるのではないかという懸念が上がっているようです。

今回の指導変更のメリットデメリット

メリット(利点)

①実質的な健康管理の促進
単なる表面的な数字合わせではなく、医師による面接指導や連続休息時間(インターバル)の確保など、労働者の健康を守るための具体的な対策が企業に促されます。

②企業の柔軟な業務対応力の向上
繁忙期や突発的なトラブルなどに対し、企業が一律の時間制限にとらわれず、柔軟に人員を配置して業務を遂行しやすくなります。

③「隠れ残業(サービス残業)」の減少
これまで、45時間の基準をクリアするために労働時間を過少申告させる「サービス残業」が問題視されていました。一律の基準が緩和されることで、正確な労働時間の記録・申告がしやすくなる可能性があります。

デメリット(懸念点)

①長時間労働が常態化するリスク
「45時間」という明確なブレーキ(指導の目安)が弱まるため、企業側の歯止めが効きにくくなり、結果的に労働者の総労働時間が延びてしまう恐れがあります。

②指導基準の曖昧化と「抜け道」の発生
「健康措置を実施しているか」の評価は時間に比べて基準が曖昧になりがちです。形だけの健康相談窓口を設置するなど、実態が伴わない対策で指導を逃れる企業が出てくる懸念があります。

③ワークライフバランスの悪化
たとえ会社側が健康措置(面接指導など)を行っていたとしても、物理的な労働時間(拘束時間)が増えれば、労働者のプライベートな時間や家族と過ごす時間は必然的に削られることになります。

今回の指導改訂を使用者はどう生かすべきか

今回の指導改訂については、メリットを十分に生かす一方、デメリットは発生させない、というのが使用者の望ましい対応と考えます。

すなわち、単に長時間労働を従業員にさせることが許容されるようになった、と考えるべきではないということです。

従業員の長時間労働に依存した経営は、効率化・生産性向上を妨げます。

この30年、日本が停滞したのは、漫然と旧態依然の経営を許容したからと言われています。

ここで、長時間労働に依存した場合には、停滞を再来させるだけでしょう。

生産性を向上させ、AIの導入や技術革新を進め、引き続き長時間労働を抑制し、実質的な健康の促進など今回のメリットを生かす企業のみが、今後も生き残ることができると考えられます。

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この記事を書いた弁護士:弁護士 野田 泰彦

労働問題(使用者側)

弁護士法人グリーンリーフ法律事務所所属、埼玉弁護士会所属の弁護士。
2009年弁護士登録後、契約書チェックや債権回収、財産開示、削除請求などの企業法務や、労使問題に従事。
埼玉弁護士会スクラム相談所運営協議会事務局長、埼玉県よろず支援拠点コーディネーターなど、外部での中小企業向け法律相談も担当しており、日常的に中小企業や中小企業に関係する法律問題に接している。