令和元年(2019年)から続く法改正により、職場におけるパワーハラスメント防止のために、雇用管理上必要な措置を講じることが事業主の義務となりました。このような措置の中身として「事業主の方針の明確化及びその周知・啓発」があり、たとえば就業規則にハラスメントの禁止を謳う・懲戒事由としてハラスメント行為を明記する、などの対応が考えられます。そこで、今回はハラスメント防止策として具体的にどのような就業規則を設けることが望ましいのか、概略を説明いたします。

会社のハラスメントに対する対応について

法律上の措置義務について

セクシャルハラスメントについては男女雇用機会均等法にて、パワーハラスメントについても労働施策総合推進法にて、それぞれハラスメントに対する措置を会社に義務付けています。

これらの法律により会社は、従業員等のために相談窓口や就業規則などの整備、広報などによる周知・啓発をすることが必要とされています。

ただ、法律施行後もなおハラスメント事件は後を絶たず、厚労省が公表している「民事上の個別労働関係紛争」の相談内容としては、延べ316,072件の相談件数のうち、「いじめ・嫌がらせ」というパワハラが問題となる項目が全体の17.4%・54,987件を占めるとされており、件数としてはトップとされています。

このようなハラスメント事件が多い背景としては、会社としての措置が十分でないという要素も考えられるところであり、逆に適正な措置の重要性が浮き彫りになっているといえます。

就業規則について

就業規則とは何か

使用者と労働者との関係は、労働条件や職場で守るべき規律などによって内容が決まっています。あらかじめこれらの労働条件や服務規律が明確化され、周知されていることが、両者に対しそれぞれの権利義務を認める前提となります。そして、このような労働所件や服務規律を明文化したものの一つが、就業規則であるといえます。

就業規則で必ず定めなければならないこと

 労働基準法上、、常時10人以上の労働者を使用する事業場は、就業規則を作成し、その事業場を所轄する労働基準監督署長に届け出ることが義務付けられています。当該労働者にはパートタイマー等の立場の方も含みます。

 また、仮に労働者が10人未満の事業場であっても、就業規則を作成整備することは望ましいとされています。

 就業規則に必ず記載しなければならない事項としては、

(1) 始業及び終業の時刻、休憩時間、休日、休暇等
(2) 賃金の決定、計算及び支払の方法、賃金の締切り及び支払の時期並びに昇給に関する事項
(3) 解雇事由その他、退職に関する事項
(4) 退職手当の定めがある場合の、対象労働者の範囲、退職手当の決定、計算及び支払の方法並びに退職手当の支払の時期に関する事項
(5) 臨時の賃金等及び最低賃金額の定めをする場合の当該事項
(6) 労働者に食費、作業用品その他の負担をさせる場合の当該事項
(7) 安全及び衛生に関する定めをする場合の当該事項
(8) 職業訓練に関する定めをする場合の当該事項
(9) 災害補償及び業務外の傷病扶助に関する定めをする場合の当該事項
(10) 表彰及び制裁の定めをする場合の、当該事項
(11) その他、当該事業場の労働者のすべてに適用される定め

ハラスメント防止に関する就業規則について

各種のハラスメントについて、どのような定めを入れるべきか

 まず、使用者側から労働者が守るべきものとして、「ハラスメント行為をしてはならない」という内容の規定をする必要があります。

法改正により、使用者にはハラスメント防止について措置義務を課されていますので、ハラスメント加害者に対し、厳正に対処することを、就業規則上、服務規律及び懲戒規定において定める必要があります。

ハラスメント行為は多種多様であり、どこまでを範囲とするのか、行為態様等まで定めるのかという線引きが困難ですが、少なくともセクシュアルハラスメント(セクハラ)、パワーハラスメント(パワハラ)、マタニティハラスメント(マタハラ)については典型的なハラスメント行為として定め、その他のハラスメントについては一般的な禁止行為として定めるということが考えられます。

服務規律について

服務規律とは、労働者が使用者の命令に基づいて業務を行うにあたり、労働者の労務提供のあり方や職場のあり方等について定めるものであり、使用者は、職場秩序の維持、良好な職場環境の保持、円滑な業務遂行、職場の安全、施設の保全等の目的のために就業規則においてこれらのことを定めます。

 服務規律は行為規範として労働者の行為の水準・禁止行為の水準として意味を持つことになります。

服務規律自体は就業規則の絶対的必要記載事項ではなく、相対的必要記載事項とされ、定めるかどうかは使用者の任意というのが法律上の規定ですが、上記のとおり労働者の行為水準・禁止行為の定めなのですから、ここにハラスメント行為についても記載することが望ましいといえます。

懲戒規定とは

労働契約関係というものは、使用者が労働者に対して絶対的な命令権を持つものではなく、使用者が労働者に対して懲戒処分を行うには就業規則上の根拠が必要となります。懲戒処分をする以上は、懲戒事由と処分内容をあらかじめ就業規則に定めておかなければ労働者にとっては予測可能性もなく、またそもそも懲戒処分を背景とした行動を律する効果を失います。

また、懲戒に関する規定は就業規則の必要記載事項でもあるため、ハラスメント行為による懲戒処分を明らかにするためには就業規則に規定を入れることは、労基法上の要請でもあります。

このような規定をしていれば、就業規則上、ハラスメント行為が服務規律に違反した行為として懲戒事由に該当することになります。

なお、服務規律において特定の行為を禁止し、かつ懲戒事由として定めていなければ、当該行為を行ったことだけを理由に懲戒処分を行うことはできません。

防止措置の定め方

就業規則の中に、ハラスメント行為の定義や、それに対する対処を全て記載することは就業規則の内容を複雑化させてしまうため、ハラスメント防止規程を別に作成してその中にハラスメント防止についてのみまとめて定める方法が明確です。

当該ハラスメント防止規定が就業規則の一部であることを明らかにするために、就業規則本文には「ハラスメント防止措置等ハラスメントに関する規定は別に定めるハラスメント防止規程において定める」等の規定を設けておく必要があります。

特に、ハラスメント行為を懲戒事由として「懲戒処分」する場合の規定は、既に述べているとおり就業規則において定める必要がありますので、就業規則の一部となっていることが明確になっているか注意が必要です。

ハラスメントについて服務規律に定める際の留意点

・ハラスメント行為の対象を明確化すること
ハラスメントには多くの行為類型があり、すべてのハラスメント行為を明確化して服務規律に定めることはできないと思われます。そこで、まずはパワハラ・セクハラ・マタハラについて禁止行為として定め、その他は「職場秩序を乱す行為」や「他の労働者の就労環境を害する行為」、あるいは「周囲の労働者への配慮が必要な行為」として定め、柔軟に対応できるように定めることが考えられます。

・ハラスメント行為の定義づけをすること
例えばパワハラについて、「職場において優越的な関係を背景として、業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動により、他の労働者の就業環境を害してはならない。」等法律上の定義を引くなどして、問題となる行為を明らかにすることです。

 同様にセクハラについては、男女雇用機会均等法に基づき「職場における性的な言動であって、これに対する労働者の対応により当該労働者の労働条件について不利益を与えたり、当該性的な言動により当該労働者の就業環境を害したりしてはならない。」などとすること、マタハラについても同法等に基づき「職場において、妊娠、出産、育児休業等の利用に関する言動により、労働者の就業環境を害してはならない。」として一般論として禁止行為を明確にすることが考えられます。SOGIハラといった新たなハラスメント形態も認識されつつあるこんにちでは、一般論としての規定にも意味があるといえます。

懲戒事由としての定め

懲戒事由としての規定では「就業規則に反する行為」や「服務規律に違反する行為」を懲戒事由として明記することが一般的です。

ただし、厚労省の指針においても「職場におけるハラスメントに係る言動を行った者については、厳正に対処する旨の方針及び対処の内容」を規定し周知することを特に大きく掲げています。そこで、パワハラ・セクハラ・マタハラをしたこと自体自体を懲戒該当行為として定めるべきとも考えられます。

これを前提とすると、規定例としては以下のようになります。

・パワハラ行為について
「職場において優越的な関係を背景として、業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動により、他の労働者の就業環境を害したとき」

・SOGIハラ・アウティング行為について
「性的指向又は性自認に関する言動により、他の労働者の就労環境を害したとき」
「特定の労働者の性的指向又は性自認について、当該労働者の同意を得ずに暴露したとき」

・セクハラについて
「職場における性的な言動により、これに対する労働者の対応により当該労働者の労働条件について不利益を与えたり、当該性的な言動により当該労働者の就業環境を害したりしたとき」

・マタハラについて
「職場において、妊娠、出産、育児休業等の利用に関する言動により、労働者の就業環境を害したとき」

就業規則の周知徹底

 以上のように、服務規律としてハラスメント行為を禁じることを明記し、かつ懲戒事由としてハラスメント行為があること、具体的なハラスメント行為により懲戒処分がされることを明記し、周知徹底することが、使用者の措置として求められているといえます。

 これらの措置を通じて、ハラスメント行為を労働者に知らせ、予防すること、また残念ながらハラスメント問題が生じてしまった時には当該就業規則に基づき対応をすることが可能となるのです。これらができる環境では、労働者ものびのびと自分の実力を発揮することができ、おのずと企業としての価値も上がっていくことが期待できるでしょう。

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■この記事を書いた弁護士
弁護士法人グリーンリーフ法律事務所
弁護士 相川 一ゑ
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