紛争の内容
従業員(以下「相手方」)が退職を申し出た後、会社側は合意退職を提案しましたが、相手方はこれを不当解雇であると主張しました。
この点については、合意があったことを主張し、不当解雇ではないとの判断を得ました。しかし、その後、相手方から未払い賃金があるとして訴訟を提起されました。

交渉・調停・訴訟等の経過
会社側は相手方からの未払い賃金請求に対し、応訴しました。訴訟対応の中で、会社側から相手方への貸付金が存在することが判明したため、この貸付金の回収も視野に入れました。
一般的に、労働基準法により未払い賃金と貸金の相殺は原則として禁止されています。
しかし、粘り強い交渉の結果、最終的に相手方との間で、未払い賃金請求額と会社からの貸付金を相殺することについて合意を取り付けることに成功しました。

本事例の結末
相殺合意が成立したことにより、相手方が請求していた未払い賃金の全額を支払うことなく、大幅な減額を実現し、会社側の実質的な支払いを最小限に抑えることができました。結果として、相手方の未払い賃金請求を退ける形での解決となりました。

本事例に学ぶこと
本事例は、労働事件において、一見会社側にとって不利に見える状況であっても、多角的な視点から会社の権利を主張し、戦略的に交渉を進めることの重要性を示しています。
相手方の請求に対して安易に応じるのではなく、会社が有する債権(本件では貸付金)の有無を確認することが重要で、仮に債権がある場合には、それも回収すべきです。
未払い賃金と貸金の相殺が原則禁止されている中でも、当事者間の合意を得ることで、より柔軟な解決を図ることも考え荒れます。困難な状況でも諦めずに交渉を継続し、相手方の状況や心理を読み解きながら、会社にとって最も有利な解決策を模索する戦略的な思考が不可欠です。

弁護士  申景 秀
弁護士 遠藤 吏恭