事案の概要
支店長の地位にあった従業員が休日に脳出血により死亡し、労災認定がなされたが、その数年後、遺族から会社の安全配慮義務違反を理由とする損害賠償訴訟を提起された、という事案でした。

訴訟の経緯
遺族の主張は、従業員は生前健康体であり、脳出血の原因は会社が長時間労働を強いたためである、というものでした。
そこで、当時、従業員と関わりのあった上司・部下に聴き取りを行い、従業員の勤怠管理表等の資料を確認するとともに、労災関係・病院関係の資料を取り寄せ、当時の従業員の勤務実態及び脳出血の原因事実について反論を行いました。
前者について、当時の従業員がどのような業務を行っていたか、また、それが長時間労働に及ぶものではないということを示すために、業務の流れを一覧化することに加え、従業員が行っていた業務内容を再現し、どの程度の時間がかかる業務かの実験を行いました。
後者について、脳神経外科の専門医の協力を仰ぎ、脳出血の原因となった瘤の大きさ等からするとかなり以前から脳出血の原因は存在していた等を意見書にまとめてもらいました。

本事例の結末
従業員の遺族からの請求金額は1億円程度でしたが、こちらからの反論内容を考慮の上、6000万円程度を減額する和解案が裁判所から提示されました。双方検討の結果、当該和解案を受諾するということで訴訟終結となりました。

本事例から学ぶこと
健康診断の標準的な検査項目に含まれず、本人に自覚症状がない等、外部から進行状態を確認することが難しい脳出血等の疾患については事後的に得られる医学的資料が少なく、その原因の特定は困難となることが多いと思われます。
また、タイムカード等に長時間の労働時間が記録されている場合、事後的にその一部について労働時間にあたらないと主張することも同じく困難です。
前者はやむを得ない部分が多いかもしれませんが、後者についてはタイムカード等を都度確認することにより実態に即した労働時間を記録させることが可能ですので、将来的に紛争に発展する可能性も踏まえ、日々の管理を徹底することが重要かと思います。